テート美術館展 光/大阪中之島美術館

「光」を纏った芸術作品たち。時代、地域、画家の枠を超えた『テート美術館展』【大阪中之島美術館】

2023年11月17日

テート美術館展 光― ターナー、印象派から現代へ/大阪中之島美術館

『テート美術館展 光 — ターナー、印象派から現代へ』が大阪中島美術館にて開催中です。

本展は「光」をテーマに、イギリス・テート美術館の、18世紀末から現代までの約200年間に及ぶアーティストたちの作品が集結。そのジャンルも、絵画、写真、彫刻、素描など、非常に幅広く展示されています。

すでに中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドで話題を集めてきた世界巡回展でもあり、日本はその最終会場です。

日本限定作品や特別出品作品もあり、さまざまなアートを通じて多様な光の表現を体感できる内容になっています。


テート美術館展とは?


ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー《湖に沈む夕日》1840年頃

「テート」とは、イギリス政府が所有する美術コレクションを所蔵・管理する組織のことです。

ロンドンなど各地にある4つの国立美術館を運営しており、コレクションは7万7千点以上にのぼります。

本展では、そんなテート美術館からおよそ100点が日本初出品。

「光の画家」と称されるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775-1851)をはじめ、印象派を代表するフランスの画家クロード・モネ、ブリジット・ライリーなどの現代アーティストたちによる約120点に及ぶ作品が展示されています。

実際にテート美術館展に足を踏み入れてみると、7つのチャプター(章)が16室にわかれて展示されており、それぞれにテーマが定められていました。

年代ごとに順を追うのではなく、各テーマにあった作品が、時代や地域の枠を超えて展示されている。「ここの展示室の作品たちは、光をどのように捉えているんだろう?」と考えながら鑑賞体験するのがとても新鮮でした。

描く対象、人によって異なる「光」の楽しみ方


ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》1871年

「光」をテーマに集まった作品たちを見ていると、「同じ光なのにこれほどまでに着眼点や表現方法が異なるのか」と驚かされます。

たとえば、「精神的で崇高な光」がテーマのチャプター1。光と影をドラマチックに描き、人の内面や精神性に迫った作品たちが多数展示されています。

なかでも圧巻の大きさを誇っていたのがこちらの作品。愛の神が、巡礼者を闇から救い出そうとしているようすが描かれています。


エドワード・コーリー・バーン=ジョーンズ《愛と巡礼者》1896-97年

導くは愛の神——。本作品は、中世のフランスの愛の詩を14世紀に翻訳したジェフリー・チョーサーの『薔薇物語』が主題になっています。完成までには20年もかかったのだとか。

続くチャプター2のテーマは「自然の光」。

シスレー、モネ、ピサロなどの印象派の画家たちの作品を中心に、さまざまな風景画が展示されています。

絶えず変化しつづける空気や光。モネは時間によって光が変化する度にキャンバスを持ち替えて、その瞬間の光景を描きつづけたそうです。

私は実際に離れてみたり、近づいてみたりと1つの作品をいろいろな角度から眺めてみました。

自然の光をテーマにした作品たちの“自然光”の描き方は、画家によっても時代によってもかなり違うんですね。

風景の切り取り方や色彩使いなどを、直近でじっくり鑑賞できるのも本展の魅力のひとつなのかもしれません。


アルフレッド・シスレー《春の小さな草地》1880年

また、チャプター3では「室内の光」に焦点が当てられています。

都市の近代化が加速した19世紀末は、アーティストたちの間で「室内というプライベート空間の表現」に関心が集まった時期なのだとか。


ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》1903年

窓から差し込むやわらかい光が、白と黒をベースにした色彩のコントラストで巧みに描かれています。

平面でありながらも、部屋の奥行きと暖かさが滲み出ていて、思わず立ち止まって見惚れてしまいました。

後半のチャプターでは、幾何学的な形態を用いて光と色の関係を考察するアーティストたちの作品も。

正直、「何が描かれているのかよくわからない」と感じるものもあったのですが、その違和感こそがアートの面白さでもあります。

正確に言葉では表現できないけれど、作品のなかには確かに「光」があり、そこに作品が「存在していること」を表している。


ゲルハルト・リヒター《アブストラクト・ペインティング(726)》1990年

ゲルハルト・リヒターの作品を見ていると、分厚い絵の具が重なり合った奥に、なにか空間のようなものを感じて、「イメージが隠されているのでは?」と感じる場面も。

チャプターが後半に進むにつれて、芸術“鑑賞”というよりも“体験”に近い展示になっていて、その新しさにもワクワクしました。

絵画“だけじゃない”のがテート美術館展


デイヴィッド・バチェラー《ブリック・レーンのスペクトル2》2007年

本展は「光」が大きなテーマになっているので、絵画の他にも映像やインスタレーション(展示空間を含めて作品とみなす手法)、キネティック・アート(動く美術作品、動くように見える美術作品)なども、作品として展示されています。


ピーター・セッジリー《カラーサイクルIII》1970年

とある一角には、天井から吊り下げられた黄色いディスクが、回転しながら光を反射しています。

壁に黄色い円が投影されることは想像できるのですが、なんと、ディスクに貼られた特殊なフィルターによって別の壁には紫の円が・・・!

壁から壁へとサイズを変えながら移動していく円を見ていると、無意識のうちにその空間に没入している自分がいることに驚くはず。


オラファー・エリアソン《黄色vs紫》2003年

そして最後は、半透明のガラスで構成された球体がゆっくりと回転している展示室へ。「広大な光」がテーマのチャプター7です。

『星くずの素粒子』の“素粒子”とは、物質が分解されて最も小さくなった単位のこと。

壁、天井、足元にまで反射された光のなかで、まるで自分が星くずの一部になったような、星くずが集まって自分が構成されている感覚が生まれてくるような・・・。


オラファー・エリアソン《星くずの素粒子》2014年

広大な宇宙において、人間が過ごす時間はほんの一瞬。その時間の尊さをあらためて認識した作品でした。

日々の忙しさから少し離れて、「光」について考えませんか?

「光」をテーマにしたさまざまな作品が集うテート美術館展。

実際に風景画や体験できる展示を通して、「いつも身近にあるはずの光を、こんなにじっくり、ゆっくり感じたのは初めてかもしれない」とハッとしました。

日常生活のなかにも多様な「光」は存在していますし、その光が自然の美しさや時間の尊さ、人生の儚さを教えてくれるのかもしれません。

美術に詳しい方をはじめ、毎日忙しくしていて、なかなか意識して光を見る・感じることができない人にこそ、おすすめしたい展示です。

本展のアンバサダー・板垣李光人さんが音声ガイドを務められています。

各作品についてわかりやすく、丁寧に解説してもらえるので、ぜひ気軽に訪れてみてください。

Exhibition Information

展覧会名
テート美術館展 光 ― ターナー、印象派から現代へ
開催期間
2023年10月26日~2024年1月14日 終了しました
会場
大阪中之島美術館 5階展示室
公式サイト
https://tate2023.exhn.jp/