2021年10月25日

さまざまな「語り」のあり方を紹介。東京都渋谷公園通りギャラリーで開催中

語りの複数性/東京都渋谷公園通りギャラリー


語りの複数性 展示風景より

アール・ブリュット(*)をはじめとするさまざまな作品の紹介を通し、人びとの多様な創造性を提示する東京都渋谷公園通りギャラリー

同館が建つ「公園通り」という名称は、昭和48年(1973)にパルコPART-1が開店したことをきっかけに名付けられたそう。パルコはイタリア語で公園を意味します。それまでは区役所通りと呼ばれていました。

*アール・ブリュット:フランスの芸術家、ジャン・デュビュフェによって提唱された言葉です。今日では、広く、専門的な美術の教育を受けていない人などによる、独自の発想や表現方法が注目されるアートのことを表す言葉として使われています。

アートを通してダイバーシティの理解促進や、包容力のある共生社会の実現を目指す同館。本記事では、10月9日より開幕した展覧会「語りの複数性」について紹介します。

※展覧会情報はこちら

語りの複数性とは?

本展のタイトルにもなっている「語りの複数性」。「語り」と聞くと、物語や友人たちとの対話などを思い浮かべるのではないでしょうか。

人は、物事をそれぞれ違う方法で捉え、自分なりのやり方で伝えています。しかし、物事を受け取り表現する方法は、ひとつではありません。

世の中には視覚を使わずに見る人、手話を使って話す人がいるように、人の身体の数だけ、さまざまな語りが存在します。

それは、限られた人の特殊な表現方法ではなく、本当は誰もが持っている、自分と異なる他者や物事とともに生きるための能力であると考えられます。

そうした考えのもとに構成された本展では、8人のアーティストによる写真や絵画、模型、映像など、さまざまな形で空間に展開された語りのあり方について紹介。さまざまな方法で語りを紡ぎだす身体を想像する展覧会です。

写真家・川内倫子による写真絵本『はじまりのひ』


語りの複数性 展示風景より 川内倫子《無題》シリーズ「はじまりのひ」より(2018年)

1972年、滋賀県に生まれた川内倫子は、2002年『うたたね』『花火』の2冊で第27回木村伊兵衛写真賞を受賞するなど、現在も精力的に活躍する写真家です。

写真絵本『はじまりのひ』は、川内が出産し、母になる体験を通して芽生えた「気づき」を、言葉と写真でつづり、絵本に仕立てた作品です。

本展では、絵本を壁面に展開し、視覚に障害のある人も触って感じられる触図を加えて再構築して展示しています。

また、目の見える人と見えない人が集まって、バラバラな「見方」を持ち寄ることで、自分なりの写真を見る体験を共有する読書会を経て、目の見えない人が『はじまりのひ』を描いたテキストと音声も紹介されています。


語りの複数性 展示風景より 川内倫子《無題》シリーズ「はじまりのひ」より(2018年)

本展を企画担当した田中みゆきさんによると、写真を触覚から感じてもらうため、触図はかなりこだわって作ったとのこと。しかし、実際に目の見えない人に触図を体験してもらったところ、これだけでは写真の中に描かれている物語を感じにくいという意見があったそうです。

そこで、読書会を経て再度、触図を紹介したところ、見えない人たちにも想像を広げてもらうことができたといいます。

田中さん曰く、本展示をより深く楽しむために「視覚で見る写真、触れることで感じる写真、目の見えない人によるテキストと音声、さまざまな方法で『はじまりのひ』の世界を感じてほしい」とのこと。

目の見えない人がどのように視覚以外の感覚を使って想像を膨らませているか、考えるきっかけをくれる展示になっています。

孤独死の現場を再現したミニチュア


語りの複数性 展示風景より 小島美羽《終の棲家》(2019年)

孤独死の現場をミニチュアで再現した本作は、遺品整理や特殊清掃の仕事に就く小島美羽によるもの。

小島は、孤独死が誰にでも起こりうることを伝える必要性を強く感じながらも、その生々しい現場がなかなか伝えられないことにもどかしさを感じ、ある時、ミニチュアで伝える方法を思い立ちます。

2016年からミニチュアを独学で制作開始し、国内外のメディアやSNSで話題となりました。

それぞれのミニチュアは、特定の現場を写真などを見ながら忠実に再現したものではなく、小島が仕事の中で見てきたさまざまな部屋の特徴をまとめて、再構築しているそうです。

小島の作品は、その人の最期の瞬間や孤独だけではなく、それまでそこにあった生を照らし出しています。

「声」の役割について考えさせられる映像作品

百瀬文《聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと》 (2013年)

《聞こえない木下さんに聞いたいくつかのこと》は、アーティストの百瀬文と、ろう者の木下知威(ともたけ)による、「声」を巡る対談の形式をとった映像作品です。

2人は手話を使わずに、口の形や動きから言葉の意味を読み取って会話を進めています。

ふだん、私たちが物事を伝えるために使っている「声」とは何かに挑む本作。こちらの映像作品は、30分ごとの入れ替え制で上映します(毎時0分/30分開始、上映時間25分。途中入場不可)。

 

それぞれの作品から多様な語りのあり方を体感できる本展。

ひとつひとつの作品に込められた思いをひもときながら、家族や友人などの他者と観て、意見を交換してみてはいかがでしょうか。

Exhibition Information