内藤礼 生まれておいで 生きておいで/東京国立博物館

東京国立博物館で内藤礼が繋ぐ 現代と”かつての生”【東京国立博物館】

2024年7月4日

東京国立博物館で内藤礼が繋ぐ 現代と”かつての生”【東京国立博物館】

東京国立博物館 本館 エントランス

東京国立博物館で、展覧会「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」が開催されています。

150年の歴史を持つ東京国立博物館の収蔵品、建築空間と内藤礼との出会いから始まったという本展。

縄文時代の人の手によって制作された作品と、現代の内藤礼の作品を通じ、原始この地上で生きた人びとと、現代を生きる私たちに通ずる精神世界、創造の力を感じる展覧会です。

美術家・内藤礼

内藤礼(ないとう れい)は、1961年広島県生まれ、現在東京を拠点に活動する美術家です。

「地上に存在することは、それ自体、祝福であるのか」をテーマに、光、空気、水、重力といった自然がもたらす事象を通して「地上の生の光景」を見出す空間作品を生み出してきました。


内藤礼《通路》 2024年(内藤礼 生まれておいで 生きておいで展 展示風景より)

代表作のひとつ、瀬戸内海に浮かぶ豊島にある豊島美術館の恒久設置作品《母型》では、天井に開けられた穴からは雨や風、光が内部に直接入り込むのとともに、内部空間では、一日を通して「泉」が誕生し、季節の移り変わりや時間の流れとともに、無限の表情を伝えます。

東京国立博物館の収蔵品を起点に製作された展覧会

今回の展覧会では、東京国立博物館の収蔵品と建築空間、そして人の歴史と向き合って制作された、新作を含めた約100点の作品を展示。

平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジという3つの展示室で構成されています。

“生”と“死”のはざまにあるものを感じる「平成館企画展示室」

平成館の考古展示室の向かいにある「平成館企画展示室」。こちらでは、白く柔らかいフランネル生地の敷かれた明るいガラスケースの内側と、外側の鑑賞者の立つ薄暗い空間の両方に作品が並びます。


平成館企画展示室 展示風景

「生と死は分けられないもの」として問い、生の光景を見いだす作品を生み出してきた内藤は、本展示室のガラスケースの中を「生の外」、ケースの外を「生の内」として構成しました。

はじめに展示されているのは、東京国立博物館の収蔵品で、縄文時代に豊穣や多産を願って制作されたとされる《土版》です。


《土版》 東京都品川区大井権現台貝塚出土 縄文時代(後〜晩期)・前2000〜前400年

内藤が東京国立博物館でこの《土版》と出会い、それが、内藤の《死者のための枕》という作品とつながり、この世界を成り立たせている“何か”から「生まれておいで生きておいで」という“呼びかけ”を感じ取ったところから今回の展覧会が構成されました。


内藤礼《死者のための枕》 2023年

本展示室では《土版》と対になるように、シルクオーガンジーと糸で制作された《死者のための枕》が展示され、生と死の境となるガラスケースの境界には、大森貝塚遺跡公園で採取された石や枝も並びます。


内藤礼《Two Lives》 2024年

自然光の下で共鳴する作品と建築空間
建築当初の建物の記憶を呼び起こす 「本館特別5室」

続いて、本館エントランスの階段の裏にある「本館特別5室」へ。小さな通路の先には、明るい光に満たされた荘厳な空間が広がります。


本館特別5室 展示風景

本展示室は、ふだんは扉のシャッターが閉められ、壁には仮設壁、床には絨毯の敷かれた展示室。

今回の展示のために、数十年で初めてシャッターを開け、建築当初の裸の空間として公開されました。内藤の作品の重要な要素のひとつである自然光が、大開口の窓から差し込みます。


大開口の鎧戸が開放された本館特別5室

その空間には、新作であるガラスビーズや鈴を使った《母型》が吊られ、自然光に照らし出されます。


内藤礼《母型》 2024年 今回の展示のために制作された新作

一方、床面に並ぶのは、鹿の骨や猫の毛といった、かつて”生”であったものたち。そして、日本各地から出土した縄文時代の土製品、東京国立博物館や上野恩賜公園で採取された石や枝とともに作品が構成されています。


《鹿骨》千葉県野田市山崎貝塚出土 縄文時代(晩期)・前1000〜前400年
内藤礼《無題》 2024年、内藤礼《無題》 2024年、内藤礼《無題》 2024年
獣骨を展示するのは東京国立博物館では初


猫毛で制作された 内藤礼《とんの毛》 2024年

本会場の中央付近に展示されているのは、今回のキービジュアルにもなっている、重要文化財の《足形付土製品》。

これは、幼くして亡くなった子どもの足形をとって、親が家にかけていたというような用途で制作されたと考えられています。


重要文化財《足形付土製品》新潟県村上市上山遺跡出土 縄文時代(後期)・前2000〜前1000年

自然光の中で、さまざまな“かつて生きた人の証”が呼びかけてくる空間構成です。


《猪形土製品》青森県つがる市木造亀ヶ岡出土 縄文時代(後〜晩期)・前2000〜前400年

博物館を象徴するような作品 「本館1階ラウンジ」

庭園に面した「本館1階ラウンジ」では、自然光と庭園の緑が美しい空間に、ガラス瓶を重ね、その上に水を満たした《母型》という作品が展示されています。


本館1階ラウンジ 展示風景 展示室中央に展示された 内藤礼《母型》 2024/2022(2009)年

「生と死の交換」を表す本作品は、まさに、かつての「生」であった人びとの歴史の繰り返しを保存・展示する、博物館を象徴するような作品です。


内藤礼《母型》 2024/2022(2009)年

場所を越え 2会場で繋がる内藤礼の世界

本館特別第5室の2つの壁面には、紙とアクリル絵具による絵画《color beginning/breath》の連作が並びます。

これは、今年9月から銀座メゾンエルメス フォーラムで開催される「内藤礼 生まれておいで 生きておいで」展につながる作品となっているそう。こうした2会場にまたがる展示構成は内藤にとっても初の試みです。


内藤礼《color beginning/breath》 2023-2024年

本展のきっかけとなった母体を思わせる《土版》から、特別5室の西側壁面の絵画へ。

その作品は銀座メゾンエルメス フォーラムに展示される作品から、さらに特別5室の東側壁面の絵画へと繋がり、ラウンジの《母型》、そして最後に《死者のための枕》へと、生の繰り返しを感じる展示構成となっています。


特別5室 展示風景

今回の展覧会について、内藤は、「これまでも持ち続けていた問いは東博という場であったからこそ深く感じ、考えることができたといえます。」と語りました。

まとめ

内藤礼の作品と東京国立博物館の収蔵品、建築空間が共鳴する本展。

展示の中には、注意をしなければ見落としてしまいそうな、小さな作品や身近な素材も含まれます。


本館1階ラウンジに展示された 内藤礼《世界に秘密を送り返す》 2024年

本展を手がけた鬼頭智美学芸員は、「内藤さんの作品見ていると、ずっと見ていると気づくものがたくさんありますので、この展覧会の後に当館の他の展示を観ると、今まで見えなかったものが見えてくるのではないか。そういったことも期待したいと思っております。」と語りました。

内藤礼の作品とともに、東京国立博物館にある「かつて生きた人の証」を見つめ直してみませんか。


国立博物館 本館 常設展示室

Exhibition Information

展覧会名
内藤礼 生まれておいで 生きておいで
開催期間
2024年6月25日~9月23日 終了しました
会場
東京国立博物館 平成館企画展示室、本館特別5室、本館1階ラウンジ
公式サイト
https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?id=2637
注意事項

※混雑時は入場をお待ちいただく可能性がございます。
※荒天の場合、一部会場が閉場となる場合があります。
※会期中の展示替えはございません。
※詳細は、東京国立博物館公式ウェブサイトでご確認ください。