2021年11月17日

「民藝の100年」で知る、民藝への新しいまなざし

柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」/東京国立近代美術館

近年注目が集まっている「民藝」。民藝運動の辿ってきた道のりを通覧しつつ、手仕事の価値を紹介する展覧会が、東京国立近代美術館にて開催中です。

展示室入口

「民藝」という言葉は「民衆的工藝」を略したもので、1925年に柳宗悦(やなぎ むねよし)、濱田庄司、河井寬次郎らが生み出しました。

「それまで見過ごされてきた日常の生活道具のなかに潜む美を見出し、工芸を通して生活と社会を美的に変革しよう」という思想・運動のことを指します。 

本展は全6章で構成。特に「美術館」「出版」「流通」という民藝のモダンな編集手法に注目し、柳宗悦らが蒐集(しゅうしゅう)した陶磁器、染織、木工など、日常で使う道具や大津絵といった民画のコレクション、出版物や写真、映像なども合わせて450点を超える作品と資料が展示されます。

※展覧会情報はこちら

なぜ今東京国立近代美術館で開催されるのか

「近代美術館は、その名称が標榜してゐる如く、『近代』に主眼が置かれる。民藝館の方は、展示する品物に、別に『近代』を標榜しない。」

柳宗悦は東京国立近代美術館が開館したとき、上記の批判文を投げかけました。

確かに東京国立近代美術館の名称には、「東京⇔地方」「官⇔民」「近代⇔前近代」「美術⇔工芸」といった、柳宗悦が対抗しようとしていたものばかりが含まれています。

本展は、そのような柳宗悦からの批判を今どのように返球するかのチャレンジでもあるとのことです。

展示内容は、民藝を近代化の歴史の中に位置づけること、柳宗悦の思想だけではなく多くの作り手の具体的な活動を紹介すること、そして民藝運動のメディアや編集の視点を取り上げることが意識されています。

民藝を新しくとらえなおして次の時代への眼差しを作り上げるという「意思」を感じさせてくれる内容です。

民藝運動前夜

民藝運動の創始者の一人である柳宗悦は、もともと文芸雑誌『白樺』の最年少メンバーでした。

『白樺』と聞くと文芸雑誌であり、志賀直哉や武者小路実篤らの名前が思い浮かぶ人も多いと思います。

本展には、オーギュスト・ロダンから贈られた彫刻も展示されており、柳宗悦が民藝を見出す前から芸術に関心を寄せていたことがわかります。

左:オーギュスト・ロダン《ロダン夫人》1882年 大原美術館(白樺美術館より永久寄託)

右:オーギュスト・ロダン《ゴロツキの首》1885年 大原美術館(白樺美術館より永久寄託)

この頃に、画家・陶芸家であるバーナード・リーチとの交流も始まり、徐々に東洋美術への関心が高まっていきました。

朝鮮、日本、西洋の工芸品蒐集と民藝の萌芽

柳宗悦が民藝運動を開始するきっかけのひとつとなったのが朝鮮の民藝品です。柳宗悦が朝鮮民族美術館の開設に尽力するきっかけともなった朝鮮陶磁器なども展示されています。

展示風景

また、日本各地の雑器、いわゆる「下手物(げてもの)」も展示。

丹波布などの手仕事による品物の蒐集が、民衆的で郷土に根ざした工芸の広がりを把握するきっかけとなりました。

木喰五行(もくじきごぎょう)《地蔵菩薩像》(部分)1801年 日本民藝館

展示風景

その他にも、民藝運動創始メンバーらにより、イギリスやアメリカを始めとする西洋の手仕事の品も蒐集されました。

例えば椅子、本の挿絵、スリップウェア皿などが展示されています。

展示風景

美術館・出版・流通を通じた「メディア」の視点

当時、民藝運動を広げ定着させるために、現代で言うメディアを駆使していた点も見逃せません。宣伝のために民藝品を蒐集、展示する日本民藝館を開設したことは有名です。

それにとどまらず、雑誌『工藝』や『月刊民藝』なども発行しており、写真挿図を活用するなど、さまざまな目を引く工夫をこらしていました。

展示風景

また、新作民藝を扱うセレクトショップ「たくみ工藝店」を鳥取と東京に開店するなど、民藝を流通させる仕組みづくりにも尽力していました。

衣服も民藝の宣伝となる立派なメディアです。実際の衣服や民藝のメンバーの間で流行った鼈甲の丸メガネなども展示されています。

展示風景より手前:眼鏡(河井寬次郎着用) 河井寬次郎記念館

また、柳宗悦の書斎の再現もあり、本展での見せ方にも興味が惹かれます。

アイヌなど境界へのまなざし

民藝運動での蒐集は多岐にわたり、前述した朝鮮陶磁器を始めとして、沖縄やアイヌ、中国や台湾など各地の工芸品も展示されています。

展示風景

また、民藝運動を推進していた人たちは、地方に埋もれている美しいものの発見と保護活動にも尽力していました。有名なのは鳥取砂丘の文化財申請や景観保護活動です。

本展では、このような活動と民藝との繋がりを知ることもできます。

《木綿切伏(きりぶせ)衣裳》北海道アイヌ 19世紀 日本民藝館

前期展示:2021年10月26日~12月19日

戦後復興が落ち着いた頃には、民藝運動の展開のために北欧デザインが参照されました。柳宗悦が監修した「フィンランド・デンマーク展」に、自身も文章を寄せるなど、北欧デザインの物づくりの精神を高く評価しているようすが伺えます。

現在の日本でも人気の北欧デザイン。当時のまなざしを知ることができます。

展示風景

本展では、北欧デザインにヒントを得た工芸品も数多く展示。近代的なキセルをデザインした河井寬次郎は、「本当の民衆的工芸のあとつぎは機械工業品になる」と述べています。

近代化から距離を置いていた民藝運動にも、近代化のなかで発展してきた世界のさまざまな工芸品が影響を及ぼしていました。

特設ショップ「D&DEPARTMENT」も見逃せない!

本展や日本民藝館で民藝品を観るのも良い経験ですが、実際に工芸品を購入して使うことも大切です。

本展は特設ショップにも力を入れているので、手に取り、選ぶことができます。デザイン活動家であるナガオカケンメイ氏によるセレクトショップ「D&DEPARTMENT」では、新しい民藝感覚のロングライフデザインの視点から選ばれたアイテムを販売しています。

その他に全国の民藝を扱うショップから、全4店舗が2週ごとに特設ショップ内のポップアップ・ストアへ出店。

特設ショップ内ポップアップ・ストア※写真は11月7日まで出店していた銀座たくみの出店のようすです。

実際に見て、触って、日常生活に馴染む魅力的な品物を手元に置いてみてはいかがでしょうか。

特設ショップ内

Exhibition Information

展覧会名
柳宗悦没後60年記念展「民藝の100年」
開催期間
2021年10月26日~2022年2月13日 終了しました
会場
東京国立近代美術館
公式サイト
https://mingei100.jp
注意事項

作品保護のため、会期中一部展示替えがあります。
(前期:10月26日~12月19日、後期:12月21日~2022年2月13日)