ピエール=オーギュスト・ルノワール/10分でわかるアート
2021年11月17日
小林徳三郎/東京ステーションギャラリー

《花と少年》1931年 ふくやま美術館
こんにちは!
美術館巡りが趣味のかおりです。
だいぶ気温も下がってきて、もうすっかり冬ですね。
肌寒くなってきたこの季節にはほっこりした絵が見たくなる・・・。
そんな今にぴったりなのが、見た目も心もあたたまる、東京ステーションギャラリーで開催中の「小林徳三郎」展です。
「詩のような日常宇宙。」とキャッチコピーが打たれた本展は、日常にぐっと視線を寄せた、身近なものや人びとへの愛情を感じる作品が多く、共感をもってみることができます。
また、小林徳三郎の大回顧展ということで、彼の生涯と作風を余すところなく堪能できる充実の展示となっています。
小林徳三郎(1884−1949)は、現在の広島県福山市生まれ。1909年に東京美術学校を卒業するのですが、展示ではこの頃の作品から見ることができます。

卒業制作の自画像や妻政子を描いた水彩など
その後加わったフュウザン会ではおおいに刺激を受けたようで、油彩や水彩で描く洋画だけでなく、木版やエッチングも行うなど、多彩な表現に挑戦する姿勢がみてとれます。

《観客席》東京都現代美術館(前期展示)
仕事では、舞台装飾に携わったり、雑誌の表紙などの印刷物に関わったりと、大正ロマンといわれる大衆文化が華開いたこの時代で精力的に活動します。
小林徳三郎が仕事をした劇団「芸術座」の看板女優 松井須磨子は、彼の支援者でもあったそうです。

当時一世を風靡した女優 松井須磨子のバナーや衣裳案など
芸術座での仕事は、舞台装置図、模型、小道具のデザイン、衣装の装飾文様の図案、上演プログラムの表紙を飾る図案など、多岐にわたります。

舞台に関するさまざまな展示から、当時の演劇への熱気が伝わってきます
舞台に関わるあらゆる「描く」仕事を、選り好みせず真摯に向き合いながらこなしていく小林徳三郎の仕事ぶりがみえるようです。
出版物の仕事では、表紙や挿絵などを多く手がけました。展示では、原画と印刷物の仕上がりの比較ができるので、とてもおもしろいです。

上が原画、下が印刷された色刷。比べてみるとおもしろい
携わった本の中には、子ども向けのものや婦人向けの雑誌もあり、こうした仕事が洋画を描く際に日常生活を題材にとるという作風につながったのかもしれません。
一方で、洋画の方も描き続けており、鰯や鯵といった魚の絵が大変人気となりました。
展覧会の会場には、たくさんの魚の絵が展示されており、どれもどこかかわいらしく、あたたかなタッチが魅力です。
じっと見ていると、「おいしそう」という感想がでてくるのは私だけでしょうか。
主に発表をしていた春陽会の仲間からは「鰯の徳さん」と慕われていたそうで、当時の画家仲間にも好評だった魚の作品はぜひじっくりみていただきたい作品群です。

鰯だけでなく、鯛が描かれた作品も
さらに日常や家族を題材とした作品も多く制作されます。
鮮やかに描き出される光景は、現代の私たちにも「どこかでみたことあるぞ」と思わせるものがたくさんあります。
こちらの子どもがゴロゴロしている様子など、家のリビングでよく見かける光景ではないでしょうか?

(左から)《子供たち》1932年 個人蔵/《こども》1932年頃 広島県立美術館
また、次の写真の左の絵は、絵の中の子どもは本を読んでいますが、これをゲーム機に持ち変えると、見慣れた子どもの姿に見えませんか?
いつの時代も変わらない家庭の情景に、ふふっと笑いそうになります。

(左から)《裸体(読書)》1928年 ふくやま美術館/《裸体(仰臥)》1928年 ふくやま美術館
そして、金魚をみつめる少年の絵。
素朴でしかし真剣味のある眼差しで金魚鉢の中を泳ぐ金魚をじっと見つめるようすに、絵を見ているこちらも吸い寄せられます。

右から2番目の作品が《金魚を見る子供》1929年 広島県立美術館
父親と息子という関係性だからこそ、こうも気負いない自然な表情を捉えられているのだなと思うと同時に、小林徳三郎の画力を感じさせます。
また、あざやかな色使いも魅力のひとつ。
その明るくほっこりとした色合いは、療養を経ても色褪せることはありませんでした。
体を壊すと暗い作風になりがちなところを、むしろ明るさが増しているようにも思われる作品に、小林徳三郎の精神的な逞しさを感じます。

療養のため画業を中断した後に描かれた作品群
晩年は日本画を試みたり、風景画が増えたりするなど、精力的に絵画制作に取り組んでいることがわかります。
何気ない日常の光景や静物画も、変わらぬ魅力を放っています。
孫の絵がでてきたときには、「なんと孫が!」と、親戚の家の子の成長を見るような気持ちになりました。

右の作品が、《孫(ふじ子)》1941年 個人蔵 ぷっくりほっぺがかわいい
普段、回顧展といってもこんな気持ちになることはないのですが、愛情深く描かれた小林徳三郎による絵を見続けたからこそ、こうした感慨を抱かせるのだろうと思います。
絵日記もとても魅力的なので、ぜひ会場でみていただきたいです。
日常に根ざした、愛情あふれる小林徳三郎の作品。初期から晩年にいたるまでの作品の数々は、どれも心温まるものでした。
この居心地のよいこたつの中のような空気感を、ぜひ会場で体感してみてください。
小林徳三郎の作品に癒されることまちがいなしです。
それでは愉しいアートライフを!