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2024年11月1日
深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ/東京都写真美術館
身近な存在にカメラを向けるということ。そんな現代では当たり前に行われていることについて、新たな視点を与えてくれる展覧会「深瀬昌久 1961–1991 レトロスペクティブ」が東京都写真美術館で開催中です。
深瀬昌久(ふかせ まさひさ、1934〜2012)は、自身の私生活を深く見つめる視点によって、日本の写真史の中に独自のポジションを築き上げた写真家。日本デザインセンターや河出書房新社などでの勤務を経て、1968年に独立。1960年代からは、カメラ雑誌を中心に作品を多数発表するようになり、1974年に米・ニューヨーク近代美術館で開催された「New Japanese Photography」を皮切りに、世界各国で注目を集めるようになります。
深瀬の作品の特徴は、のちに「私写真」と呼ばれるようになる、極めてプライベートな表現を数多く残したところにあります。大規模な回顧展となる本展では、そんな深瀬の「被写体に対する愛ある眼差しと、ユーモラスな軽やかさ」を、存分に感じることができるでしょう。
展覧会風景 1章|遊 戯
深瀬の代表的な作品をシリーズごとに時系列順で紹介する本展。入ってすぐに現れる1章では、1971年に刊行された最初の写真集『遊戯』の作品群を鑑賞することができます。1988年頃の早い時期から、深瀬の作品を収集し始めたという東京都写真美術館。この〈遊戯〉シリーズは、深瀬がプリントしたものを本人から直接購入した貴重な作品となっています。
展覧会風景 2章|洋 子
本展覧会の目玉となっている2章〈洋子〉。その中でも深瀬の代表作にもなっている《無題(窓から)》では、妻の洋子(その後離別)が出勤する様子を、当時2人が住んでいた団地の4階から毎朝撮影した連作を観ることができます。1枚ごとに表情や仕草・ファッションが異なる彼女の姿は、普段写真を鑑賞することの少ない方にとっても、新鮮で楽しいものとなっています。
展覧会風景 4章|烏(鴉)
展覧会風景 5章|サスケ
1976年に洋子と離別した深瀬は、その直後から〈烏(鴉)〉や猫の〈サスケ〉といったモチーフを撮影するようになります。こうした写真からは、どこか洋子の面影を感じ取ることができ、前章の〈洋子〉と合わせて観ることで、撮影者である深瀬が被写体に自身を重ね合わせるような目線で撮っていたのだということに気がつくことができるでしょう。
展覧会風景
展覧会風景
身近な存在を撮影することが、撮影者にとってどういう行為になっているのか、そうしたことを改めて考えられるのも、本展覧会の魅力となっています。
「一般的に視覚で撮ると言われている写真を、深瀬は触覚的に捉えていたとされています。だからこそ、彼は自分自身の手の届く範囲を私写真として記録したのではないでしょうか」(展示協力:トモ・コスガ)
触れるように写真を撮るという考え方は、もしかしたら現代の私たちがスマートフォンで撮影をすることにも、どこか通じるものがあるのかもしれません。
本展の図録には、展覧会に並ぶ114点にさらに3点を追加した、計117点の作品が収録されており、詳細な解説とともに深瀬の作品を網羅できる一冊となっています。こちらもぜひお見逃しなく。
本展の詳しい情報は展覧会ホームページをご確認ください。