いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ/東京都写真美術館

19世紀の映像装置からメディアアートへ 光と動きの面白さを観て 触って 体験する【東京都写真美術館】

2024年8月9日

19世紀の映像装置からメディアアートへ 光と動きの面白さを観て 触って 体験する【東京都写真美術館】

東京・恵比寿にある東京都写真美術館で、「いわいとしお×東京都写真美術館 光と動きの100かいだてのいえ ―19世紀の映像装置とメディアアートをつなぐ」展がはじまりました。

メディアアーティストであり絵本作家でもある岩井俊雄の作品が、東京都写真美術館の所蔵する19世紀を中心とした映像装置とともに展示される展覧会です。

歴史ある映像装置の仕組みを触って体験したり、岩井俊雄のメディアアート作品を体験することで、19世紀から現代までつながる”光”と”動き”が生み出す映像の面白さを、大人からこどもまで体験できます。

メディアアーティスト 岩井俊雄/絵本作家 いわいとしお

岩井俊雄は日本のメディアアーティスト。1980年代から映像を使ったメディアアート作品を発表するほか、テレビ番組やゲームソフト制作、電子楽器開発など多岐にわたる活動を展開してきました。

また、絵本作家・いわいとしおとしての顔も持ち、代表作「100かいだてのいえ」シリーズを手がけています。


岩井俊雄氏

今回の展覧会は、岩井俊雄のメディアアート作家としての一面と、絵本作家としての一面を融合した内容となっています。

19世紀の映像装置 歴史を貴重な実物で追い、触れる模型で仕組みを体験する

会場に入ると、岩井によるイラストが描かれた大きな作品《巨大かがみの100かいだてのいえ》が出迎えます。


岩井俊雄《巨大かがみの100かいだてのいえ》2024年 東京都写真美術館蔵

そこには、映像装置を発明してきた19世紀の発明家や科学者たちが描かれており、その箱を覗き込むと、まさに「100かいだてのいえ」のように、上下にどこまでもフロアが続いていくようです。


岩井俊雄《巨大かがみの100かいだてのいえ》2024年 東京都写真美術館蔵

第1章では、その科学者たちが発明してきた、東京都写真美術館所蔵の歴史ある映像装置が展示されています。

さらに、これらの装置のレプリカも多数制作・展示されており、その原理を実際に触って体験できます。


第1章 19世紀の映像装置 展示風景

例えば《車輪のイリュージョン》は、並んだ柵を通して転がる車輪を見ると車輪のスポークが歪んで見えるという現象を1824年に、イギリスのピーター・M・ロジェが科学的に考察したもの。

今からちょうど200年前の発見が、その後の映像装置への発明に繋がっていきました。


岩井俊雄《ロジェのイリュージョン実験装置》2023年 岩井俊雄蔵

また、《アノーソスコープ》や《フェナキスティスコープ》といった装置のレプリカも展示されており、実際に動かしてその仕組みを体験できます。


橋本典久《プラクシノスコープ・レプリカ》2023年 橋本典久蔵

実際に触って体験することで、その仕組みを理解しやすくなるのとともに、当時の人が魅了された映像の世界を追体験できるようです。

当時のテクノロジーの面白さはそのままに、20年を経て再生された岩井俊雄作品

第2章では、岩井俊雄のメディアアート作品が紹介されます。


第2章 岩井俊雄のメディアアート 展示風景

特に注目したいのは、1985年から1990年に制作された《時間層》シリーズです。


《時間層》シリーズ 展示風景

紙で制作された人形や動植物の絵を回転させ、ブラウン管テレビの映像が明滅するのをストロボ光源のように使用することで、19世紀の映像装置をスリットなしで大人数が同時に体験できるインスタレーション《時間層Ⅱ》《時間層Ⅲ》。

さらに、三管式プロジェクタをストロボ光源に使うことでよりダイナミックな映像をつくりだす《時間層Ⅳ》など、4作品が30分ごとに上演されます。


岩井俊雄《時間層Ⅲ》1989年 岩井俊雄蔵

特に《時間層Ⅰ》《時間層Ⅲ》《時間層Ⅳ》は、約20年間箱に入ったまま保管されていたものを昨年再生したもので、《時間層》シリーズの4作品が一堂に会するのは今回が初。

平面の絵に、光と動き、そして音楽が加わることで、静止しているときとは全く違った幻想的な世界が生まれます。


岩井俊雄《時間層Ⅳ》1990年 岩井俊雄蔵

20年ぶりの再生にあたり、記録メディアをデジタル化するなど現在の技術に変更した点もありますが、ブラウン管の明滅など、作品の着想を得た仕組みについては修復の難しさがあっても当時の技術を残して再生したといいます。


岩井俊雄《映像装置としてのピアノ》1995年 岩井俊雄蔵

また、1995年の作品《映像装置としてのピアノ》も展示されており、トラックボールで描いたドットが、光とグランドピアノの音へと変換されるようすを体験できます。

「車輪の再発明」から過去の映像装置を見直す

第3章は「イワイラボー19世紀を再発明する」。現代のメディアアート作品と19世紀の映像装置を接続するような作品が展示され、まさに実験室のようです。


第3章 イワイラボー19世紀を再発明する 展示風景

例えば、《マジック・ランタン》や《ゾートロープ》という古い映像装置を100円ショップで買える素材などを用いて再現する試みが行われています。

さらに、現代では多くがデジタル化されている映像に「物質性」を取り戻すための試みや、驚き盤をデジタルのビューワーと組み合わせる試みなど、19世紀の人たちのイメージを現代のテクノロジーでアップデートする可能性を探っています。


岩井俊雄《花のおどろきばん》2023-24年, 《おどろきばんテーブル》2024年 岩井俊雄蔵

この展示室を出ると、再び第1部の19世紀の映像装置の展示室へと戻ります。

19世紀と現代の映像表現をつなぐ試みの後で、また新たな視点で19世紀の装置に触れられるかもしれません。

まとめ

岩井俊雄は「今回の展覧会は、かなり野心的で冒険的な展覧会だと思います。一つ一つのものをちゃんと体験できるようにし、なおかつ、歴史の中で作られたものを一つ残さず展示したいという野望を抱いて、今回の展覧会に至っております。」と語っています。


岩井俊雄氏

歴史的な映像装置の仕組みを体験し、それが1980年代から現在までの技術と接続することで生まれる新しい映像も体験できる、こどもから大人まで、幅広い観点で楽しめる展覧会です。