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2024年11月1日
第9回菊池ビエンナーレ/菊池寛実記念 智美術館
スフマートでは、「つくる」「つたえる」という2つの視点をもとに、ミュージアムを支えるさまざまな人へのインタビューを隔週・前後編でお届けします。
今回お話をお聞きしたのは、菊池寛実記念 智美術館(以下、智美術館)の学芸員・足立 圭さんです。
菊池寛実記念 智美術館・足立 圭さん ※撮影時、マスクを外していただきました。
2003年に開館した智美術館は、東京都港区虎ノ門のオフィスビルや各国の大使館が立ち並ぶエリアにある、現代陶芸を紹介する都内で唯一の美術館です。
館内は、創設者の菊池 智(とも)と交友のあった美術家の篠田 桃紅(しのだ とうこう)さんの作品や、ガラス作家の横山 尚人さんが手掛けた展示室へ向かうらせん階段の美しい手すりなど、こだわりが詰まった空間になっています。
後編では、足立さんのこれまでのご経歴や、現在開催中の公募展「菊池ビエンナーレ」についてお聞きしました。
智美術館の創設者・菊池 智のこだわりがつまった空間について詳しくお聞きした前編はこちら
──足立さんは元々、近現代絵画を専攻されていたそうですが、智美術館に移ったきっかけについて教えてください。
はい。長野県立美術館に7年、神奈川県相模原市にある女子美術大学の美術館に6年在籍していました。
県立美術館のときに文化庁が行っている巡回展のプロジェクトで、重要無形文化財保持者(いわゆる人間国宝)の工芸展を担当した経験がきっかけで、工芸や陶芸に興味を持ち始めました。県立美術館では収蔵品の工芸展を担当する機会がありましたが、陶芸のみを専門的に扱うようになったのは、智美術館に移ってからです。
現存の作家と一緒に展覧会を作り上げていくのは、意外な驚きがあります。自分の力だけではなく、作家とともに展覧会の準備を進めていくと、その作品の新たな魅力をご紹介できることもあるので、引き続き、現代の作品を扱っていけたらと考えていました。
──智美術館では、展覧会を企画されるとき、どのように準備されていますか。
公募展の「菊池ビエンナーレ」を2年に1回行いつつ、企画内容のバランスを考えて検討します。各学芸員が、担当する展覧会の準備に本格的に取り掛かることができるのは、約1年前くらいからでしょうか。
また、普段から定期的に学芸員で集まって情報共有をしています。それぞれが、興味のある分野や専門にしている時代がありますので、日々、フィールドワークを重ねて温めている企画内容がまとまったタイミングで、展覧会の形にして行ければと考えています。
私も常に企画展のヒントを探していますが、やはり他館の展覧会を観に行くと刺激を受けます。最近ですと、岐阜県の多治見へ行き、そのあと、土岐市の陶芸資料を扱う博物館も観て回りました。
細やかな調査とその地域ならではの研究、他地域との接点などもていねいに整理して提示されていて、素晴らしかったです。足を伸ばした甲斐がありました。
──「菊池ビエンナーレ」は現在開催中ですが、いつどのようにスタートした取り組みなのでしょうか。
開館の翌年の2004年に、当時館長を務めていた陶磁史研究家の林屋 晴三氏の発案で、スタートしました。
「菊池ビエンナーレ」は、現代陶芸の振興を目的に、2年に1回、全国から作品を公募し、優れた作品を展示する公益財団法人菊池美術財団の取り組みです。
回を重ねるごとに地域、年齢とも幅広い制作者の方々からのご応募をいただき、今回で9回目を迎えます。
──回を重ねられてきて、今回の応募作品や傾向はいかがでしたか。
見ごたえのある内容になっていると思います。特に40~50代くらいの作家の方々の作品は、充実したものが多く見られました。
公募展は力強い作品も多く、毎回とても展覧会が盛り上がります。なかには「当館の展示空間に展示されるのが嬉しい」とおっしゃる作家の方もいらっしゃいます。
展示室は、作品が持つ力が発揮できる空間であるべきだと考えています。作家ご自身も、作品が思いがけない見え方になっているかもしれません。ぜひ多くの方に足を運んでいただき、直接ご覧いただけると嬉しいです。
──足立さんが思う陶芸の魅力について、教えてください。
陶芸は、うつわの形をしたものから、オブジェのような用途のない造形まで、さまざまな作品があります。説明が難しいのですが、実用性の有無ではなく、そうした作品は心を豊かにしてくれる存在なのではないでしょうか。
土という素材はシンプルに聞こえますが、地域によって土が全く違いますし、その土から生まれる形も違ってきます。また、釉薬(ゆうやく)のことを勉強しようと思ったら、化学の知識が必要など、そういった素材の面白さがあります。
陶芸は関係する要素が多いからこそ、魅力がさらに広がるのではないかとも思います。それにコンセプトややりたいことがあっても、作家自身に土を立ち上げる力がないと形になりません。
技術や素材の扱い方が非常に重要ですので、基本的な鍛錬を必要とする世界なのです。
──基本的な技術が必要なのと同時に、創造性も大切なのですね。
そうですね。技術と創造性、どちらもバランス保つことが重要であり、そのプロセスも手順を追って取り組まないと、やきものは完成しません。
そのため陶芸家は、バランス感覚に優れ、ていねいで真面目な方、そして実は気さくな方が多いと感じています。
──そのような過程を経て準備された展覧会や陶芸作品を、足立さんはどのように伝えていきたいとお考えですか。
現代陶芸を専門に公開している施設は、都内だけでなく全国的に見ても少ないので、広く多くの方、特に若い世代に智美術館へ訪れていただけるよう活動していきたいと思います。
もちろん、これまで長く菊池家が収集してきたコレクションの展覧会も行いつつ、陶芸のみならず、2018年に竹工芸の展覧会を行ったように、幅広い工芸もご紹介できればと考えています。
──智美術館では、作家を招いてのアーティストトークや、劇団員の方を招いての朗読会なども積極的に行っていますね。
はい。軽井沢演劇部による朗読劇は、2014年から年1回開催する恒例のイベントになっています。
また、10月9日に開催したフルートのコンサートも、そのとき企画展を行っていた中里隆先生が、ご自身の工房で定期的にコンサートを開いていらっしゃるご縁で実現したものです。
さまざまなイベントをきっかけに、新しい来館者の方に当館を知っていただけるのは本当にありがたいことです。
──智美術館は、文化的なサロンみたいですね。足立さんご自身は今後、智美術館をどのようにしていきたいとお考えですか。
都内で作陶している作家の方々もいらっしゃいますし、東京ならではの発信力を活用して当館から提示していきたいです。
また私自身は、デザインやアートと結びついた陶芸作品に興味がありますので、いつか当館で紹介できればと思います。
工芸とデザインやアートは、もっとつながっていけると思いますので、美術館の立場から積極的に取り組み、ゆくゆくは展示を企画して現代陶芸をもっと多くの方に知っていただけたらと考えています。
現代陶芸の「今」を紹介する菊池寛実記念 智美術館。文中でご紹介した第9回「菊池ビエンナーレ」は、2022年3月21日までの開催です。
陶芸作品の多様な広がりを楽しめる展覧会ですので、ぜひ間近で力のある作品をご覧ください。
次回の「つくる」「つたえる」を聞くインタビューでは、弥生美術館の学芸員・外舘惠子さんにお話をお伺いします。お楽しみに。
(次回:2022年1月11日 更新)