渋谷で出会う 同時代を映すアート【UESHIMA MUSEUM】

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2025年6月27日

渋谷で出会う 同時代を映すアート【UESHIMA MUSEUM】

ジャン=ミシェル・オトニエル《pink Lotus》 2015年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

開館から1年を迎える渋谷のUESHIMA MUSEUMで、新たなコレクション展示がスタートしました。

コレクターである植島勘九郎氏のコレクションをもとに、今回はキュレーターの長谷川祐子氏がキュレーションを担当。地下1階から地上5階まで、フロアごとにテーマが設けられ、それぞれ異なる表情の展示空間が広がります。

UESHIMA MUSEUM COLLECTIONは「同時代性」に着目したコレクション。

若手作家から世界的アーティストまで、世代や地域を横断する多彩な作品によって構成されています。

渋谷の都市とつながる 開かれた美術館

展示室の入り口では、縞模様の猫が、ゆっくりとお腹を上下させながら気持ちよさそうに眠っています。

これは、ライアン・ガンダーによる猫の彫刻作品。タイトルの「不法占拠者たち(The Squatters)」という表現もユーモラスです。


ライアン・ガンダー《Sowing confusion amongst the titles, or The squatters (Tiger meet Hiller’s Lucidity & Intuition: Homage to Gertrude Stein (2011))》 2020年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

美術館のすぐ側にある「キャットストリート」も連想させ、街とアートをゆるやかにつなぎながら訪れた人を迎えてくれます。

1階の展示室のテーマは「都市とポップ」。展示室内には、バンクシー、アンディ・ウォーホル、ダミアン・ハーストといった世界的アーティストの作品が並びます。

ポップな親しみやすさと、社会への鋭いメッセージが共存する空間です。


左から バンクシー《Bomb Love》 2003年、タカノ綾《Fireworks Flashed in the Darkness》 2003年、村上隆《untitled》 2016年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

奈良美智の《In the Floating World》は、浮世絵版画をベースに描かれた作品。江戸の浮世絵とも共通するようなユーモアや不穏さも取り入れられています。

今回、葛飾北斎の浮世絵とあわせて展示されているのも印象的です。


(左、右)奈良美智《In the Floating World》 1999年、(中)葛飾北斎《諸国名橋奇覧 かめゐど天神たいこばし》 1834年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

光の空間に静かに没入する ジェームズ・タレルの常設インスタレーション

特に注目したい作品のひとつは、2階に新たに加わった常設作品、ジェームズ・タレルの《Boris》です。


ジェームズ・タレル《Boris》 2002年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

テレビのブラウン管のような窓の奥に淡い光がゆらめき、ゆっくりと色彩を変化させていきます。定員3名の小さな部屋には椅子がひとつ。時にはひとりだけで静かな光の空間への没入体験ができるかもしれません。

また、同フロアにはゲルハルト・リヒターの作品6点も展示。

油彩、写真、フォトペインティングなど、複数のメディアの作品群が、物質とイメージの間を揺らすように、観ることの本質を問いかけてきます。


左から ゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild (P1)》 1990/2014年、ゲルハルト・リヒター《21. Feb. 01》 2001年、ゲルハルト・リヒター《Abstrakte Skizze (Abstract Sketch)》 1991年、ゲルハルト・リヒター《untitled (3.11.89)》 1989年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

このフロアには、オラファー・エリアソン、チームラボ、名和晃平、塩田千春らのインスタレーションも常設展示され、それぞれの作品に合わせた空間設計がなされています。

6つのフロアで それぞれ異なるテーマの作品と出会う

地下1階では、「宇宙と重力」をテーマに、素材や重力といった根源的なものを意識した作品が並びます。

ボスコ・ソディによる土や漆を一般的なイメージとは違った質感へと変様させる作品、多田圭祐の絵の具を使って本物そっくりの木の彫刻をつくり出す作品、そして、ライアン・サリヴァンによる、描いた絵画を剥がして裏返すという特徴的な技法による作品など、いずれも、絵画を構成する物質そのものに焦点を当てています。


地下1階 「宇宙と重力」展示風景

また、ロバート・ロンゴの、木炭による惑星シリーズの一作《untitled (small Venus)》や、マイケル・ケーガンの代表的な宇宙飛行士モチーフの作品など、宇宙の遠く広がる時間と空間を感じさせる作品も並びます。


左から マイケル・ケーガン《Those Who Came Before Us》 2022年、ロバート・ロンゴ《untitled (small Venus)》 2005年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

植島氏は「アートは今の人類が抱える問題や問いに向き合い続けている。未知なるものを追い求める姿勢は、宇宙の探求と重なって見える」と語りました。

3階のテーマは「幾何と内省のコンポジション ― 常温の抽象」。展示室の床が白く塗られ、自然光がやわらかく差し込む空間へとリニューアルしました。

アンセルム・ライルの《untitled》は、彼の代表作「ストライプ・ペインティング」シリーズのひとつ。色彩、鏡面、金属フォイルといった異なる素材が組み合わされ、リズムを感じさせます。隣に展示されたアグネス・マーティンの水彩ストライプとの静かな対話も見どころです。


左から カプワニ・キワンガ《Estuary》 2023年、アグネス・マーティン《untitled》 1995年、アンセルム・ライル《untitled》 2005年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

また、ストライプの作品で知られる山田正亮と、1997年生まれの山田康平の抽象絵画も並べて展示。

世界的なグローバルな作家とともに、若いアーティストたちの作品も積極的に収集しているUESHIMA MUSEUM COLLECTION。

今回の展示では、このように世代を超えて共鳴し合うような展示方法も多く取り入れられています。


左から 山田正亮《Work E. 369》 1988-89年、山田康平《untitled》 2023年、山田康平《untitled》 2023年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

4階は「ナラティヴと色彩のアウラ」。記憶や歴史、文化的背景が色彩とともに語られる展示空間。

ウマー・ラシッド、ワハブ・サヒードら、アフリカ系作家を含む多国籍な作家たちが、自己と社会の物語をキャンバスに託します。

加藤泉によるプリミティブなイメージの作品も、それらのモチーフと呼応するように展示されていました。


左から 加藤泉《untitled》 2020年、加藤泉《untitled》 2014/2019年、加藤泉《untitled》 2012年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION

最上階の5階のテーマは「物質と感情のエンタングルメント」。ジャン・ミッシェル・オトニエルの「ビーズ」と「レンガ」という2つの象徴的なモチーフの立体作品が並びます。

ガラスやステンレスで制作された作品で、光を透過・反射しながら、観る角度によって表情を変えていくのが印象的です。


左から マーク・クイン《The Moon of Jupiter》 2010年、マーク・クイン《Thick Pink Nervous Breakdown》 1998年、ジャン=ミシェル・オトニエル《Oracle》 2022年、ジャン=ミシェル・オトニエル《pink Lotus》 2015年 UESHIMA MUSEUM COLLECTION UESHIMA MUSEUM COLLECTION

また、マーク・クインの《Thick Pink Nervous Breakdown》では、作家自身の頭像から樹脂がしたたり落ち、神経のように絡まりあう不穏さが漂います。

一見華やかに見える花の油彩画も、他の命を自らのために”デザイン”する人間の欲望を象徴しているかのよう。

美しさの奥にある、複雑な感情と物質のもつれ(=エンタングルメント)に向き合う展示空間です。

まとめ

世界で活躍するアーティストから若手作家まで。フロアごとに異なるテーマで構成され、多様なアートの表現、そして、世界中の”いま”の感覚を体感できる展覧会です。

渋谷の街と緩やかにつながる”開かれた”美術館で、現代アートの今を味わってみてはいかがでしょうか。