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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、親しみやすい日本の宗教画である「禅画」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
世界の多くの地域と同じように、日本の初期の絵画も宗教的なテーマを描くことがほとんどでした。
最初は、外来の宗教である仏教に関係する絵画が発達し、少し遅れてアマテラスオオミカミやヤマトタケルノミコトなどの日本固有の神さまたちが描かれるようになります。
こうした仏教に関する絵画は、聖徳太子が活躍した飛鳥時代から描かれ始め、奈良時代には、遣唐使の派遣などを通じて学んだ作画技術を磨き、本家・中国にも負けない優れた作品を多く生み出しました。
鎌倉時代は、念仏を唱えれば、だれでも往生(おうじょう/極楽浄土仏へ逝き、仏として生まれ変わること)できると説く浄土信仰が民衆に支持されていました。
その結果、死後、仏さまが暮らす清らかな国である「浄土」への速やかなお迎えを願う人びとが増えたのだそう! その思いにより、阿弥陀如来に動きが加わり、画面の中に迎えを待つ人を描く構図が多くみられるようになりました。
《阿弥陀如来二十五菩薩来迎図》13~14世紀
動きのある阿弥陀如来を代表する作品《阿弥陀如来二十五菩薩来迎図》。阿弥陀如来たちが乗っているユニークな雲の動きに注目です。
まるで空から流れてくるような、スピード感ある表現から「早来迎(はやらいごう)」とも呼ばれています。
こうして、中国から輸入された仏教に関する絵画は、日本らしい絵画へと発展していったのです。
上記のような日本らしい宗教画のほとんどは、庶民に向けたものではなく、貴族や寺院で修業に励む僧侶たちのために描かれていました。
そうしたなか、江戸時代中期になると、少しでも多くの人びとに仏法を知ってもらいたい、という願いを込めた「禅画(ぜんが)」が誕生します。
禅画とは、禅僧が描く禅の教えを表した絵画のこと。中世のリアリズムが求められていた禅宗絵画と区別し、近世の禅僧によって描かれたものを主に「禅画」と呼ばれています。
この言葉だけ聞いても、どのような絵かパッと思いつかないかと思いますが・・・白隠(はくいん)や仙厓(せんがい)などと聞くと「あれか!」とひらめく方も多いのではないでしょうか。
(左)仙厓《寒山拾得図》
(右上から)白隠慧《布袋すたすた坊主》/仙厓義梵画《犬図》
彼らは職業画家や画僧ではないため、テクニックなどは気にせずに自由に、そして主観的な表現で「禅」について描いています。
素人が描いたようなゆるいタッチが魅力となり、近年では、展覧会で彼らの作品が展示されるとたちまち評判になったり、ミュージアムグッズにまでなったりと大人気! 禅画は日本美術界で人気の高い作品となりつつあります。
知らなかったという方も、この記事を機に禅画二大巨匠である、白隠と仙厓について「なるほど!」と思ってもらえると嬉しいです。
白隠慧鶴(はくいんえいかく)は、臨済宗中興の祖と呼ばれている位の高い僧侶です。
伝統を重んじる従来の禅宗絵画とは異なる、独象的な禅画が生まれた江戸時代中期。白隠は、彼に教えを求める弟子や信者のために、自分のメッセージを発信する手段として禅画を数多く描きました。
白隠といえば、禅宗の開祖であるだるまを描いた絵なども有名ですが、そのほかにもユニークな作品を残しています。
白隠《蛤蜊観音図》18世紀中頃
中国の逸話から生まれた観音をテーマとした《蛤蜊観音図(はまぐりかんのんず)》。白隠独自の発想で、魚や貝を頭にのせた礼拝者が描き込まれた作品です。
禅の世界をキャラクター化するような、自由でダイナミックな白隠の作品には、彼の人間性の大きさなども表されています。
仙厓義梵(せんがいぎぼん)は、美濃(みの/現在の岐阜県)で生まれ、博多で活躍した禅僧です。
還暦を過ぎるころから書画に本腰を入れ、70代の初めに「自分の絵には決まりがない」という涯画無法(がいがむほう)を宣言し、自由なタッチで味わいのある禅画を描きました。
犬などの動物や庶民が花見しているところ、そのほかにも自身の旅先の風景など、仙厓が描くモチーフは多彩で、関心の向くまま描きたいものを作品として残しています。
(左から)仙厓《犬図》/仙厓《寒山拾得図》
こうした禅の教えよりも遊び心を優先した仙厓の絵は、多くの人びとから絶大な支持を得ていたそうです。もう描かないと決めても依頼があとを絶たず、80歳を過ぎてもその人気は衰えなかったといいます。
仙厓《○△□(まるさんかくしかく)》
「○」「△」「□」というシンプルな図形のみを描いた仙厓の代表作《○△□(まるさんかくしかく)》。
記号のほかには、左端に「扶桑最初禅窟(日本最古の禅寺という意味)」と書かれているだけで、絵の中に本作に対する解釈の手がかりはありません。
そのため、仙厓が残した禅画のなかで、もっとも難解な作品といわれています。
「○」は満月のように円満な悟道(ごどう/仏道の真理を悟ること)の境地に至る修行を図示した、あるいは、この世の存在すべてを「○」「△」「□」で表し、「大宇宙」を小画面に凝縮したなど、本作に対する解釈は諸説あるそう。
禅の教えの奥深さを、シンプルに表した作品だと考えられます。
京都・建仁寺には、仙厓の《○△□》から着想を得たと考えられる「○△□乃庭」があります。
ここでは、禅宗の四大思想(地水火風)のうち、地を「□」、水を「○」、そして火を「△」とし、宇宙の根源的な形態を庭内で示しています。
また、「○△□乃庭」に隣接する部屋には、《○△□》の掛け軸も展示されていますよ。
京都旅行の際は、建仁寺に訪れて禅の深い世界を体験してみてはいかがでしょうか。
※建仁寺公式サイトはこちら
皇居のお濠に面した帝劇ビルの9階に位置する出光美術館。
同館は、出光興産の創業者であり、美術館創設者の出光佐三(1885−1981)が70余年の歳月をかけて集めた美術品を展示・公開する施設です。
国宝2件、重要文化財57件を含む約1万件のコレクションを持つ出光美術館は、仙厓の作品も所蔵しています。
仙厓の作品を紹介する展覧会も、過去多く開催されたほか、所蔵する仙厓の作品を使用した「仙厓カレンダー」などのグッズも有名です。
※現在は新型コロナウイルス感染症により、休館中です。展覧会の再開などについては、美術館公式サイトをご確認ください。(2022年1月27日 現在)
神勝寺 禅と庭のミュージアムは、広島県福山市にある神勝寺(しんしょうじ)内にある施設です。
広大な敷地には、復元された千利休の茶室や、建築家・建築史家の藤森照信が、山陽道から瀬戸内一帯を象徴する植物の松を多用して設計した寺務所などが点在し、その建物の間を結ぶように、趣向を凝らした禅庭が配されています。
その中の一つである「荘厳堂」は、白隠禅画墨蹟の常設展示館で、200点を超える作品群を順次、架け替えて展示する日本初の白隠専門の展示館になっています。
※新型コロナウイルスの関係で、開館時間などに変更がある場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。
ゆるくて、親しみやすい宗教画である禅画について、詳しく紹介しました。
江戸中期である18世紀後半に活動していた白隠や仙厓。このころの江戸や京都などの大都市では、庶民たちによる文化が成熟期を迎え、円山応挙や伊藤若冲が描く、個性的な絵画作品が人気を博していました。
そうした大らかな社会性も手伝って、白隠や仙厓たちが描いた禅画も、庶民たちに広く浸透していったのでは、と思います。
次回は、19世紀のイギリスを代表する風景画家「ウィリアム・ターナー」について詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・矢島新『マンガでわかる「日本絵画」の見かた 美術展がもっと愉しくなる!』誠文堂新光社 2017年