風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
―虹の彼方に― 葉山有樹/そごう美術館

《海青皇賜壷(かいせいこうしつぼ)》
そごう美術館にて、「―虹の彼方に― 葉山有樹」が2026年6月6日(土)から7月17日(金)まで開催中です。
葉山有樹は佐賀県有田町生まれの陶芸家であり、著述家としても活躍するアーティストです。
1975年に作陶を始め、昨年で50年を迎えました。
その活動は国内にとどまらず、ヘルシンキやニューヨークなど海外でも高く評価されています。
本展では約50点の作品を通じて、従来の陶芸の枠を大きく超えた大規模なインスタレーションを展開しています。

葉山有樹
第1部「音の世界」は、宇宙と地球のつながりをエネルギーの「ゆらぎ」として捉えた空間です。
ドビュッシーのピアノ曲「月の光」が流れる薄暗い会場に、夜の海の情景が浮かび上がります。
月の光によって海面がゆらぐようすに、自然と作品の世界に引き込まれます。

《月の光》
《波動》は、138億年前の宇宙誕生(ビッグバン)から生命の誕生へと続く壮大な物語を形にした大型作品です。
中心には地球と人類のアイデンティティを象徴する青い球体が浮かんでいます 。
静寂に包まれた空間で、はるかな宇宙とのつながりに思いを巡らせてみてください。

第1部「音の世界」展示風景、(手前)《波動》
《有為転変図(ういてんぺんず)》は、「あらゆるもの(万物)は常に移り変わる」という世界観を描いた作品。高さ2.4メートル、幅18メートルに及ぶ大作で、1080枚ものタイルで構成されています。
文明の発展とともに崩壊へ向かう人間社会と、秩序を保ちながら循環し続ける自然界。
その対比が、動物や妖精、神々が登場する壮大な絵巻として描き出されています。
中央には、水面に波紋が広がる作品が置かれ、万物の移ろいを象徴的に演出しています。

壁面《有為転変図(ういてんぺんず)》、 中央《森羅万象図玉盌(しんらばんしょうたまもい)》
これらの大型作品は、葉山自らが開発に携わった「エディションワークス」という新しい手法で制作されました。
陶板に描いた絵を超高解像度でスキャンし、拡大した画像をタイル状のパネルに分割。それをアルミ製の複合板へと転写する画期的な技法です。
これにより、これまで陶芸では難しかった、スケールの大きな表現が可能になりました。

作品の元となった原版の展示
歴史や文化を深く研究し、物語を書き上げてから頭に浮かんだ情景を作品化する。これが葉山独自の制作プロセスです。
会場には原稿や、描画に用いた筆なども並び、創作の舞台裏をかいま見ることができます。

制作プロセスの紹介展示
第2部のテーマは「東西文化の融合」です。
異なる文化が出会う場所にこそ変革が生まれる。そう考える葉山は、西アジアやギリシャの文化と東アジアの文化が、時空を超えて交錯する世界を創り出しました。
展示の中心に置かれた大きな鉢には、中国の歴史書に登場する最初の皇帝が描かれています。
未来への希望を込めて、その姿は幼い子どもの姿で表現されました。

《龍孫皇帝図鉢(りゅうそんこうていずはち)》
その左右には、東アジアの象徴である「龍」とメソポタミアの象徴である「鳳凰」を、モチーフにしたつぼと剣が配されています。
この剣は、1320度の高温で焼いても1ミリの歪みもなく仕上げるという難題に挑み、10年以上の実験を経て完成させた驚異的な技術の結晶です。

第2部「東西文化の融合」展示風景
「セリカの神々」シリーズでは、ギリシャ神話と東アジアの神々を融合させ、現代的なキャラクターとして再構築しました。
神々の描写は、輪郭線を描かず色の濃淡だけで形を表現する、独自の高度なテクニックを駆使しています。
その躍動感あふれる姿は、まるで劇画のワンシーンのような迫力です。

《セリカの神々 III》
第3部Ⅰ「自然界と人類の共生」に並ぶ《万花彩》シリーズは、葉山ならではの細密表現が見どころです。
磁器の表面を埋め尽くす128種類もの四季の草花は、図案を用いず、自身の記憶だけを頼りにフリーハンドで描かれています。
美しく咲き誇る草花だけでなく、季節が過ぎて散りゆく姿も見られます。
やがて土に還り、新たな命を育む糧となる。作品には、そうした自然の生命の循環とともに、豊かな環境を未来に残したいという願いが託されています。

《万花彩 Ornament》
続く第3部Ⅱ「四大文明」では、メソポタミア、エジプト、インダス、黄河という四大文明を象徴する作品が集結しています。

第3部Ⅱ「四大文明」展示風景
《煌輝唐華文壷(こうきからはなもんつぼ、メソポタミア文明)》には、アラベスク模様と、日本の伝統的な文様が組み合わされています。
異なるルーツをもつ文様を途切れない一本の線で結ぶことで、文化の交流と文明の継承を表現しています。

《煌輝唐華文壷(こうきからはなもんつぼ、メソポタミア文明)》
ほかにも、エジプトの創世神話や、インダス文明の多様な動植物、中国の四神をモチーフにしたつぼが並びます。
作品を見比べながら、それぞれの文明が育んだ信仰や美意識に触れることができます。
「虹の彼方に」というタイトルには、先人たちが私たちを見守ってくれているという思いと、次世代に夢と希望を届けたいという作者の願いが込められています。
美術館全体を舞台に、宇宙の神秘や人類の歴史が、時空を超えて響き合う壮大な物語を、ぜひ会場で体感してみてください。

会場入口