風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
「怖い」本/東洋文庫ミュージアム

展示風景
皆さんにとって「怖い」と感じるものは、どんなものでしょうか?
見えないお化けや妖怪。
思わず目を背けたくなる悪行、拷問。
いつ起こるか分からない自然災害など。
人によって違う「怖い」感覚。この感覚を歴史的な資料から紐解く展覧会が、東洋文庫ミュージアムで開催中です。
漫画やアニメでキャラクターとして描かれる妖怪。
現代の感覚だと、キャラクターとしての要素が強いためか、怖いと感じる人はあまりいないかもしれません。
こうした妖怪や目に見えない存在が、今のようにおもしろおかしい姿で描かれるようになったのは、近世頃のこと。
それ以前、こうした存在は災害や病気など、不可解な現象を引き起こす原因だと考えられていました。

(手前)菅家物語 室町時代成立 江戸時代前期(17世紀)写 (公財)東洋文庫蔵
学問の神様として知られる菅原道真は、日本三大怨霊のひとりでもあります。
非常に頭の良かった道真は、宇多天皇らに気に入られていました。
しかし、それをよく思っていなかった周りの人びとに妬まれ、京都から福岡の大宰府へ左遷されてしまいます。

菅家物語 室町時代成立 江戸時代前期(17世紀)写 (公財)東洋文庫蔵
展示では、道真が大宰府で亡くなった後、落雷などの災いが続く都のようすを紹介しています。
都の人びとは、この天変地異を「道真の祟りだ!」と恐れていました。

(左から)たまも 江戸時代前期(17世紀)写/雨月物語 上田秋成 1769(明和5)年序 いずれも、(公財)東洋文庫蔵
また、中国から日本へ渡ってきた「妖狐(ようこ)」も紹介。日本では「玉藻の前(たまものまえ)」という美しく、賢い女性として描かれています。
展示されているのは、玉藻の前が妖狐であることがバレて、武士たちに退治されるシーンを描いたものです。

(左から)子不語 袁枚 18世紀成立/点石斎画報 尊聞閣主人(メイジャー兄弟)編 1884-98年 上海刊 いずれも、(公財)東洋文庫蔵
「点石斎画報(てんせきさいがほう)」は、19世紀末の中国で発行された絵入り新聞です。
国内の時事や海外の事情、技術、そして妖怪についてと、幅広い内容を取り上げています。
展示では、人を驚かせるために、無常鬼(むじょうき)という鬼に仮装した男性が、自身の姿とそっくりな本物の無常鬼に遭遇してしまった、という記事を紹介しています。
無常鬼は、人の魂をあの世に連行すると考えられている中国に伝わる使者のこと。
仮装していた男性は、本物の無常鬼にあの世に連れていかれてしまったのでしょうか・・・。
ゾクッとする内容も掲載された「点石斎画報」は、月3回のペースで発行されていました。
ここまで、人ならざる者が与える「恐怖」を紹介してきましたが、やっぱり一番怖いのは「人間」だと言いますよね!
本展では、「人が人に対して行ってきた恐ろしさ」についても紹介しています。

アヘン吸飲者とばくち打ち ハリー・ダレル 1842年 (公財)東洋文庫蔵
こちらは、麻薬の一種であるアヘンの売買と吸飲の場所を提供する中国の「アヘン窟」のようすを、イギリス海軍の画家が描いた図です。
古くは鎮痛剤などの薬として使用されていたアヘン。
しかし、強力な依存性があり、次第に心身が衰弱していく麻薬でもあります。
中国では宮中にも中毒者が出るほど広まりましたが、1950年代に多大な犠牲を払って根絶されました。
地震や台風など、人の手ではどうにもできない自然災害も恐怖の対象でした。
そうした人の命に直結し、切実な出来事から生み出された「怖い」本も紹介しています。

(手前)地震風刺絵(鯰絵)「しんよし原大なまづゆらひ」 1855年刊 (公財)東洋文庫蔵
安政の大地震の時に、江戸市内で地震発生の直後から約2か月間、「鯰絵(なまずえ)」と呼ばれる浮世絵がたくさん刊行されました。
どれも地震の原因として考えられていた大ナマズを題材にしていますが、その表現方法はバラエティーに富んでいます。
つらい状況の中で人が生み出すユーモラスな表現にも注目です。

「怖い」とひと言で表現しても、その時代や地域によって感覚が違うことがわかる企画展「怖い」本。
当時を生きた人びとが、どんなものを「怖い」と認識していたのか、わかる内容でした。
来館には、事前購入可能なオンラインチケットがおすすめ!詳しくは、東洋文庫ミュージアム公式サイトをご覧ください。
