ICC アニュアル 2026 遺す/残る/受けとめる/NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]

情報があふれる時代に「残るもの」と「見えなくなるもの」📍ICC

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2026年7月7日

情報があふれる時代に「残るもの」と「見えなくなるもの」📍ICC

東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター [ICC]で、「ICC アニュアル 2026 遺す/残る/受けとめる」が開催されています。

「ICC アニュアル」は、メディア・アート作品をはじめとした多様な表現を紹介する展覧会シリーズで、今年のテーマは「遺す/残る/受けとめる」

AIやアルゴリズムによって、情報が膨大に生まれ、選別され、再構成されていく時代に、「何が記録として残され、何が見えなくなるのか」を問いかけます。

本展には8組のアーティストが参加。
会場では、1部屋に1アーティストずつ作品が展示され、新進アーティストを紹介するコーナー「エマージェンシーズ!」では、前期に宮下恵太、後期に杉田碧の作品が紹介されます。

映像の背後にある「物質の歴史」

会場に入ると、木製の小屋のような空間が現れ、台湾のアーティスト ウー・チーユーによる「セルロイドの物語」シリーズの3つの映像と写真作品が展示されます。

ウー・チーユー《セルロイドの物語:展示された映画の工場》2025年

セルロイドとは、初期の映画フィルムに使われた素材です。その原料のひとつが、クスノキから採れる「樟脳(しょうのう)」。かつて日本や台湾は、クスノキが豊富な地域として知られていました。

映像というメディアの歴史をたどりながら、その背後にある森林資源、労働、植民地の歴史へと視線を向けます。

1935年の台湾博覧会の記録映像をもとにした映像は、途中からAI生成画像と組み合わされ、古い「記録映像」だと思って観ていたものが虚構へと姿を変えていきます。

私たちは、生成AIによってつくられた画像を日常的に目にするようになりました。

それらは、何もないところから勝手に生成されるようにも見えますが、生成されるイメージの背後には、学習されてきた膨大なイメージや、そのイメージを支えてきた歴史があります。

ウー・チーユー《セルロイドの物語:道(陳火泉『道』に寄せて)》2025年

写真の展示ケースの中には、「タイガーバーム」も置かれています。その特徴的なすーっとする香りの成分のひとつは「樟脳」です。

会場では匂いがするわけではありませんが、遠い歴史や、生成AIの架空のイメージに想いを馳せていたところから、その香りを想像することで現実の身体の感覚に引き戻されるようにも感じられます。

光によって情報が伝わり、運動に変化する

すずえり+比嘉了による《Resistance Array》では、暗い空間の壁面に赤いレーザー光が照射され、時折、スピーカーから人びとの声が聞こえてきます。
この作品が扱うのは、世界各地で起こっている市民運動です。

2019年に起こった香港の民主化デモでは、警察の監視カメラや顔認識システムに対抗する手段として、レーザーポインタが使われました。

その方法はSNSなどを通じて広がり、チリなど世界各地の抗議活動やアクションにもつながっていきます。

すずえり+比嘉了《Resistance Array》2026年

さらにこの作品では、レーザーは単に光で線を描くための道具として使われるだけではありません。

天井から吊り下げられたレーザーポインタの光を壁面の受信機に当てると、デモの音声が再生されます。

光に音声の情報が記録されていて、光が情報を届けるメディアにもなっているのです。

すずえり+比嘉了《Resistance Array》2026年

今の時代、SNSを通じて世界中で映像や方法が共有され、言葉の壁や距離を越えて運動がつながっていきます。

現在、日本で見られるペンライトを使ったデモの光景にも、韓国のデモ文化やK-POPの応援文化を経由して広がった身振りの伝播を感じます。

記録は、ただ保存されるだけではなく、移動し、変化しながら、人びとの連帯を生み出していくようすが感じられます。

目を閉じて「気配」を聴く

ICCで特徴的な場所のひとつが、音の反響がほとんどない「無響室」。SUGAI KENの《「…ん!?」-虚響室-》は、この無響室の中で一人ずつ体験する予約制の作品です。

部屋に入る前、まず黒電話の受話器を耳に当ててしばらく待ちます。でも、そこからは何も聞こえません。

SUGAI KEN《「…ん!?」-虚響室-》2026年

ひとりで真っ暗な無響室に入って椅子に座ると、家の中の足音やスマホの通知音、駅の雑踏など、さまざまな音が聞こえてきます。

何もない・誰もいない真っ暗な空間ですが、そこに誰かがいるような「気配」が感じられます。

スマホなどで視覚情報に大きく依存している今、聴覚に重心をおいて感じるのは少し非日常的な体験です。

日常では聞こえるはずのないような場所から足音のような音が聞こえてくると、そこに誰かがいるように感じるのに加え、自分自身の身体の輪郭まで少し曖昧になっていくようにも感じられます。

「いま自分はここにいる」という感覚そのものが、音によって揺さぶられるような体験です。

遠い土地の記録に耳を傾ける

森永泰弘の《Auto-ethnography: HAMAKAI》もまた、音を扱った作品。
ソファやテーブル、本棚、観葉植物が置かれたリビングルームのような部屋で展開される、立体音響技術を用いた没入型サウンド・インスタレーションです。

森永泰弘《Auto-ethnography: HAMAKAI》2026年

タイトルにある「ハマカイ」とは、アマゾン最後の狩猟民とも言われるアワ族が、森での狩猟中に獲物となる動物の鳴き真似をするヴォーカル・コミュニケーションの一種。

森永は現地でフィールドワークを行ない、ハマカイだけでなく、アワ族が直面している違法な森林伐採や、製鉄原料を運ぶ鉄道の音なども記録してきました。

ここではそうした音が、日常的な空間で「お父さんと娘の会話劇」の形式の中で再生されていきます。

遠い土地の記録を資料のように捉えるのではなく、誰かの語りや記憶を、自分のいる場所で静かに受けとめるような作品です。

まとめ
残されたものを、どう受けとめるのか

アルゴリズムによって情報が選別されて届けられる今、わたしたちは手元に届けられる「残っている」ものだけを当たり前のように受け取ってしまいます。

でも、その背後には、記録されなかったもの、見えにくくされたもの、聞き逃してしまうものもあります。

「ICC アニュアル 2026 遺す/残る/受けとめる」は、そのように手元に残るものと見えなくなってしまったものの両面に眼を向けられるような展覧会です。

出品作家(左から):ウー・チーユー、キム・ヨンウン、ローサ・メンクマン、SUGAI KEN、すずえり、比嘉了、葉山嶺、森永泰弘、宮下恵太

Exhibition Information