【大阪・大絶滅展レポート】恐竜だけじゃない!生命史のビッグファイブと注目展示を紹介
2026年9月7日
銅版画家・駒井哲郎/神奈川県立近代美術館

「銅版画家・駒井哲郎 掌上にひろがる星座のように」が、神奈川県立近代美術館 葉山で2026年9月12日から11月15日まで開催中です。
没後50年を記念し、初期から晩年までの歩みを回顧する本展。
代表作《束の間の幻影》、未公開作品の油彩画《作品名不詳(河岸風景)》、童話『夢を追う子』の挿絵原画をはじめ、オディロン・ルドンなど、駒井が影響を受けた作家の作品、愛用の道具なども見どころです。
前日に開催された内覧会のようすをレポートします。

展示風景
広い空間に並ぶ銅版画は、ほとんどが名刺からはがきサイズの小さな作品です。
本展のタイトル「掌上にひろがる星座のように」には、手のひらに載る小さな作品から宇宙が広がっているという意味が込められているそうです。
本展は駒井の作品を人生の転機を軸に5章でたどります。3章ではモノクロ版画の魅力を、4章では色彩版画の魅力を楽しめる構成です。

4章『新潮』表紙原画展示風景

駒井哲郎が使った道具(パステル、パレット) 撮影:上野則宏
約269点の油彩・版画作品、約30点の資料のうち、200点以上の作品は資生堂名誉会長の福原義春氏が世田谷美術館に寄贈した約500点のコレクションから出品されています。

駒井哲郎《束の間の幻影》1951年 サンドペーパーによるエッチング 世田谷美術館蔵 福原義春コレクション ©Ari Komai 2026/JAA2600113
第1展示室に入って、ついたての向こう側に回ると、左手に代表作《束の間の幻影》があります。
タイトルは、ロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフの曲名から取ったものだそうです。

2章展示風景 中央が《束の間の幻影》
黒い空間にさまざまな形の物体がぽわんと浮かび、静謐な時空間を感じさせる本作は、サンパウロ・ビエンナーレで在聖日本人賞を受賞しました。

駒井哲郎《『夢を追う子』表紙・裏表紙原画》1971年頃 エッチング、パステル粉 個人蔵 ©Ari Komai 2026/JAA2600113

2章展示風景 手前が駒井哲郎《作品名不詳(河岸風景)》制作年不詳(1954年以前)世田谷美術館蔵
童話『夢を追う子』の挿絵原画や油彩《作品名不詳(河岸風景)》は初公開作品です。
西澤晴美主任学芸員によると、本展の目玉作品だそうです。

恩地孝四郎《ドビュッシー “金色の魚”》1933年 木版 個人蔵(駒井哲郎旧蔵) 駒井は恩地から「何かのご褒美に」本作を贈られた
5章「憧憬と探究―敬愛した作家たちと、愛用品」には、恩地孝四郎やオディロン・ルドンら、駒井が影響を受けた、国内外の作家の作品も展示されています。

オディロン・ルドン《『聖アントワーヌの誘惑』第1集5.つづいて魚の胴体に人間の顔を持つ奇妙な生き物が現れた》1888年 神奈川県立近代美術館 望月冨昉コレクション
駒井はルドンを大変敬愛していて、長男にルドンの次男と同じ「アリ」と名前を付けている

駒井哲郎 アトリエにて 1967年
駒井哲郎(1920-1976)は、戦後に銅版画家としてはなばなしくデビューを飾り、日本に銅版画を広めたパイオニアです。
東京美術学校油画科に学び、恩地孝四郎やオディロン・ルドンらに影響を受け、フランス留学中には長谷川潔らと交流し刺激を受けました。1951年には《束の間の幻影》が第1回サンパウロ・ビエンナーレで受賞。
安東次男ら詩人との交流から生まれた詩画集や版画集も数多く手掛けて話題になっています。1976年に56歳の若さで亡くなり、今年で没後50年を迎えました。

駒井哲郎が使った道具 撮影:上野則宏
銅版画は、凹版印刷です。磨いた銅板の表面に針や薬品で傷を付け、凹みにインクを詰めてプレスします。
直接板に傷を付ける直接技法と、防蝕膜(ぼうしょくまく/グランド)を一部はがして、その部分だけ酸で腐食させる、間接技法があります。
銅版画の一般的な技法であるエッチングも、間接技法の一つです。

銅原版《束の間の幻影》1951年 個人蔵(世田谷美術館寄託)部分
エッチングとは、防蝕膜で覆った銅板を部分的に露出させ、露出部分を酸で腐食して凹みを作る技法です。
前述の《束の間の幻影》は銅板の防蝕膜にサンドペーパー(紙やすり)を載せてプレスし、傷を腐食してトーンを出しています。
図録では本作を「サンドペーパーによるエッチング」としています。

駒井哲郎《束の間の幻影》完成作品部分
※銅版画の技法名は資料によって記載に揺れがあり、粉末などで微細な傷をたくさん付けて階調を出す、アクアチントという技法に本作を分類するものもあります。
https://online.bunka.go.jp/db/heritages/detail/223422

駒井哲郎《フロントピース Mai『斬られた首』》1960年 世田谷美術館福原義春コレクション 部分
写真(部分)はリフトグランド・エッチングと呼ばれる間接技法を用いています。
アラビアゴムを混ぜた砂糖水など、粘着性・水溶性のある液体で線を描いて乾かし、上から防蝕膜(グランド)を引きます。
次に板をぬるま湯に浸け、液体が溶けて浮き上がった膜をはがし、露出した部分を薬剤で腐食させる技法です。

筆のタッチが出せるのが特長です。

中庭が一色海岸と三ヶ岡山をつなぎ、建物と自然を調和させている
神奈川県立近代美術館 葉山はJR逗子駅からバスで約20分、葉山御用邸のすぐ近くにあります。
一色海岸を臨む併設のレストランや中庭でゆっくり過ごせ、鑑賞後に海岸散策も楽しめます。

一色海岸を臨むレストラン「オランジュ・ブルー」
会期:2026年9月12日~11月15日
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
アクセス:逗子駅からバスで約20分
公式サイト:https://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2026-komai-tetsuro/
戦後の日本に銅版画を広めたパイオニアです。
鳥や家や月が浮かぶ小さな画面と繊細な黒のグラデーションなどで、詩情あふれる作風を築きました。
初公開となる油彩や童話『夢を追う子』の挿絵原画を含め、初期から晩年までの軌跡を分かりやすくたどれること。
銅原版や制作道具、旧蔵作品などの資料や国内外の関連作家作品も見どころです。
2時間程度です。
カメラマークの掲示されている作品のみ、撮影可能です。
20歳未満・学生は1,050円(一般1,200円)、高校生は100円、中学生以下は無料です。65歳以上は600円。
会期中は10月11日(葉山館開館記念日)と11月3日(文化の日)が無料です。
毎月第1日曜(10月4日、11月1日)は18歳未満のお子さま連れのご家族が割引料金になります。
JR逗子駅、京急逗子・葉山駅からバスで約20分。「三ヶ丘・神奈川県立近代美術館前」下車すぐ。駐車場もあります。
本展の図録によると、駒井哲郎の長男・駒井亜里さんは駒井の人柄について「今思うと、父は視点が面白い人でした。物事を見る目が鋭く、本質を捉えていました」と著しています。
小さな銅板は駒井の手によって物事の本質を映す鏡となり、内面に広がる大きな宇宙を私たちにのぞかせてくれるようです。
作品はどれも理屈抜きで楽しめるものばかりです。休日のお出かけ先にいかがでしょうか。秋の葉山一色海岸は、これから気持ちのいい季節を迎えます。
参考:「駒井哲郎の銅版画/河合晴生編著」(岩崎美術社)