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2024年11月1日
松岡コレクションの真髄/松岡美術館
「白金台駅」を降りてまっすぐ伸びるプラチナ通りから、徒歩約7分の場所に位置する松岡美術館。
同館では、実業家・松岡清次郎氏(1894-1989)が長年コレクションしてきた古今東西の珍しい美術品を紹介しています。
ブールデル《ペネロープ》1912年 松岡美術館蔵
2019年6月より長期休館をしていましたが、2022年1月26日により再開館し、現在「再開記念展 松岡コレクションの真髄」が開催中です。
約2年8か月ぶりの再開となる本展では、古代ギリシャ・ローマの彫像から昭和の絵画作品まで、松岡コレクション屈指の名品を一堂に紹介します。
※展覧会詳細はこちら
1894年、東京・築地の小田原町に米穀商の三男として生まれた松岡清次郎氏。この小田原町は当時、外国人居留地であった明石町のとなりにある町でした。
そんな小田原町で育った清次郎氏は、当時英語教室を開いていたアメリカ人のもとへ遊びに行き、英語を学んでいたといいます。
1912年に東京中央商業学校を卒業すると、銀座の貿易商に入社し、貿易のノウハウを学びます。その後、1917年に独立。貿易商として成功を収めたのち、事業を拡大しました。
清次郎氏は、独立したころから美術品に興味を持ち始めました。日本画からコレクションを始めて、やがて自分のために集めた美術品を、広く愛好家に楽しんでほしいと願うようになり、80歳を契機に美術館創立を決意。1975年11月に、新橋の自社ビル内に松岡美術館をオープンしました。
その後、美術館をメインとしたビルの建設計画に携わっていましたが、1989年に志半ばで亡くなります。享年95歳でした。
清次郎氏の意志を継いだ遺族が新美術館を建てる場所に選んだのは、閑静な住宅街で知られる白金台でした。この地は、清次郎氏がお気に入りだった自宅の跡地だそうです。
生涯をかけて一大コレクションを築き上げた清次郎氏。同館には、彼によって選びぬかれた美術品約1,800件が収蔵されています。
約2年8か月ぶりの再開館を記念する「松岡コレクションの真髄」展では、3つの企画展を同時に開き、松岡美術館を形成する主要な作品を展示しています。
本記事では、各企画展の見どころ作品を紹介します。
2階展示室4では、「館蔵 東洋陶磁名品選 松岡清次郎の志をたどる」を開催中です。
松岡コレクションの3割を占める陶磁器作品のなかから、選りすぐりの東洋陶磁を購入順に展示する本企画展。
清次郎氏お気に入りだったという古九谷(こくたに)を含む日本陶磁器をはじめ、唐時代から清時代の中国陶磁を中心に、40数件を紹介します。
なかでも注目の展示作品は、景徳鎮窯(けいとくちんよう)の2つの名品、《青花龍唐草文天球瓶》《青花双鳳草虫図八角瓶》です。本作は美術館開館のきっかけとなった重要な作品です。
《青花龍唐草文天球瓶》明時代 永楽期 景徳鎮窯 松岡美術館蔵
清次郎氏と本作の出会いは、1974年4月に開催されたサザビーズ・オークションでした。この名品がオークションに売り出されると知った清次郎氏は、80歳という高齢にもかかわらず急いでロンドン入りするほど情熱をかけていました。
しかしオークションが始まると、ポルトガルの銀行王の代理人だった、グラッツ夫人によって本作は落札されます。グラッツ夫人は美術品に対して金に糸目をつけないことで有名であり、当時は「グラッツ価格」という言葉があったのだとか。
一度はオークションで落札できず、ロンドンを後にした清次郎氏でしたが、半年ほど経ったころふたたび本作と運命的な出会いを果たします。買い手だったポルトガルの銀行王が、なんとオークションから約2週間後に起きた軍事クーデターによって逮捕されてしまったのだそう。
この事件をきっかけに、サザビーズの主催者は清次郎氏に、手数料を上乗せした額を提示して「《青花龍唐草文天球瓶》を購入しないか」という電報を送ります。しかし、あまりの高額に清次郎氏はいったん断ります。
その後、貿易商としての技と幼少期から親しんでいた英語を駆使し、交渉を重ねてついに《青花龍唐草文天球瓶》を手に入れることに成功しました。
本企画展では、本作を手に入れるまでのやり取りなどの資料も展示。清次郎氏が本作の購入までにかけた熱い想いも追体験できます。
《青花双鳳草虫図八角瓶》元時代 14世紀 景徳鎮窯 松岡美術館蔵
《青花龍唐草文天球瓶》のオークションに敗れて帰国したばかりのころ、清次郎氏が知人から「美術館を建てるためには、メインとなる作品を置かなくては」と示されたのが、館蔵品第二の中核をなす本作でした。
本作はもともと世界有数の個人コレクションを築いたフレデリック・メイヤー氏の旧蔵品で、1974年6月にほかの美術品とともにオークションに売り立てられました。
サザビーズから2ヶ月後に開かれたオークションで、清次郎氏は今度こそ絶対に競り落とすと決意し、中国の美術品として史上2番目の高値で本作を落札します。この落札結果は、当時大きく報道されました。
2階展示室5・6では、企画展「館蔵 日本画 花鳥風月」を開催。本企画展では、清次郎氏が特に気に入っていたという横山大観《梅花》などの花鳥画を中心に展示します。
(左から)下村観山《山寺の春》1915(大正4)年 二幅対/横山大観《梅花》1929(昭和4)年 第5回淡交会展 いずれも、前期展示 1/26(水)~3/6(日) 松岡美術館蔵
清次郎氏が特に気に入っていたという《梅花》は、1929年の淡交会展に出品された作品です。
本作は、翌年のローマでの開催が決まっていた「羅馬開催日本美術展覧会」の出品も見据えて制作されたのだそう。そのため、大観も制作に力を入れたといいます。
伝 周文《竹林閑居図》 後期展示 3/8(火)~4/17(日) 松岡美術館蔵
また3月8日からの後期展示では、2年にわたる修復を経て初めて公開される、重要文化財 伝 周文《竹林閑居図》の展示も予定。
室町時代の禅僧であり、足利家のお抱え絵師ともいわれる周文ですが、彼の真筆とされる作品は1点も現存していないそうです。そのなかで、本作は画賛(*)に「周文」の名前が記された貴重な作品です。
画賛(がさん):山水画や禅画などの画中の余白に書き添えた詩・文章のこと。
東洋陶磁や日本画のほかにも、日本では珍しい古代ギリシャ・ローマの大理石彫刻8点もあわせて展示。なかでも1階ロビースペースで紹介されているローマ時代の《アルテミス》は、今回から新たに常設で展示される彫刻作品です。
《アルテミス》ローマ時代 1-2世紀頃 松岡美術館蔵
ギリシャ神話で狩りと貞潔を司る女神で、ローマ神話では狩猟と月の女神であるディアナと同一視されているアルテミス。本作は、ローマ期にヘレニズム後期のギリシャ彫刻を模して制作されたといわれています。
またこのほかにも隣接する展示室1では、国内ではなかなか展示される機会のない、個性豊かなギリシャ・ローマの神たちの彫像を紹介しています。
松岡美術館の創設者・松岡清次郎氏が情熱をかけてコレクションしてきた作品を紹介する本展。
国立科学博物館付属自然教育園の裏手に建つ同館は、エントランスから見える庭園も見どころのひとつになっています。
清次郎氏がこだわって集めた作品を、ゆったりとした空間で鑑賞してみてはいかがでしょうか。