ナビ派/10分でわかるアート

10分でわかるアートとは?

今回の「10分でわかるアート」では、日本美術と縁が深く、19世紀末の西洋美術における伝統的な美とは一線を画す芸術性を創造した「ナビ派」について、詳しくご紹介します。

 「ナビ派」とは

ナビ派は、ポール・セリュジェ、モーリス・ドニ、ポール・ランソン、ピエール・ボナールらで結成された画家グループです。

ナビ派の「ナビ」とは「預言者」という意味。
預言といっても占いのような未来を予測するものではく、神から啓示を受け、人々を導く者を意味する「ナビィ」というヘブライ語に由来します。

「カーナビ」などのナビゲーションシステムもここから来ています。

そして、彼らにとっての「預言者」は誰だったかというと、ポール・ゴーガンです。

ナビ派結成の中心人物であるセリュジェがゴーガンに絵の師事を受けた際に、「見たままではなく思ったままに色を塗れ」と指示されたことをきっかけにナビ派が結成されました。

ナビ派の作品の特徴としては装飾性、平面性、日常性などが挙げられます。
題材としては動物や植物、子どもが積極的に描かれました。

1890年にエコール・デ・ボザールで開催された日本美術展にも触れ、日本美術の影響も受けています。

浮世絵の手法を取り入れたり、屏風のような作品もあります。

ナビ派はポール・ゴーガンや日本美術に影響を受けた画家グループと言えるでしょう。

ナビ派を代表する画家と作品は?

ポール・セリュジエ

ポール・セリュジエ(1864-1927)は、ナビ派結成の中心人物。
ブルターニュ地方の村を訪れた際、ポール・ゴーガンに指導を受けたことがきっかけとなりナビ派を結成します。

1891年以降はナビ派の結束が緩み、メンバーの各々は独自の画風を築いていきました。

セリュジエ自身は、鮮やかな原色を使用した平面的な画面構成と、抽象的かつ物の形体を単純化して捉えた表現を確立しました。

ポール・セリュジエ《タリスマン》

本作は、ゴーギャンの指導のもとに書いた絵で、川沿いの道を歩く人を描いています。

もともとは別の題名でしたが、この作品の制作過程で《タリスマン》という題名に変わりました。

なお、《タリスマン》とはお守りという意味で、ナビ派にとって記念碑的作品となりました。

フェリックス・ヴァロットン

フェリックス・ヴァロットン(1867-1925)は、1867年にスイスの中流階級に生まれました。

18歳で絵画を志し、パリの美術学校であるアカデミー・ジュリアンに入ります。

色彩豊かな画風よりも木版画にこだわり、白黒の作品を多く制作しました。

木版画で描いた作品の多くは、社会や人間の陰の部分を風刺するような独特な作風だったと言われています。

第一次世界大戦勃発後は戦争画家として戦地に赴き、戦争の悲惨さを描きました。

フェリックス・ヴァロットン《女主人と女中》1896年

女中が女主人の手をとって水中に導いているようすが窺い知れます。
画面全体を通して色の濃い部分と薄いコントラストが明確で、ヴァロットンが好んだ木版画を彷彿とさせます。

モーリス・ドニ

モーリス・ドニ(1870-1943)は、ナビ派時代は日常の中の母子の姿をよく題材にしていました。

敬虔なキリスト教徒であったドニは次第に宗教画に傾倒していきます。

ナビ派は絵画だけでなく、版画や本の挿画、ポスターや舞台美術など多岐にわたって活躍しましたが、ドニは教会の装飾にも携わり、壁画やステンドグラスの作品を手掛けています。

モーリス・ドニ作《セザンヌ礼賛》1900年 オルセー美術館

絵の中心に描かれている果物の静物画はポール・セザンヌの作品で、この画中画を取り囲む画家らがセザンヌを礼賛するようすが描かれています。

画面の左にいる男性はオディロン・ルドン。
ルドンはナビ派の画家たちから尊敬を集めていた人物です。絵を囲ってる画家らはナビ派のメンバーも多く描かれています。

日本でナビ派の作品が見られる美術館はあまり多くありませんが、愛知県美術館新潟県立近代美術館に所蔵されている作品がいくつかあります。

東京の三菱一号館美術館でもナビ派に関連する企画展が開催されたことも。今後も何かしら機会があるかもしれませんね。

 

おわりに

目に見えるものをそのまま描くのではなく、画家自身がどう思ったかを優先して描くという考え方は、今では違和感がないと思います。しかし、当時は斬新だったことでしょう。

ナビ派の作品の独特な色づかいには、思わず目を惹かれてしまいます。

本記事をきっかけに、ナビ派の作品に興味をもっていただけたら嬉しいです。

もし、直接目で見られる機会があったらぜひ、美術館へ足を運んでみてください。

10分でわかるアートとは?

「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。

【参考書籍】
・『ゴーギャンとナビ派の仲間たち展』(展覧会図録)、ゴーギャンとナビ派の仲間たち展実行委員会(東京・パルテノン多摩、新潟・新潟大和、大阪・ナビオ美術館)1991年
・『ナビ派と日本展』 (展覧会図録)、新潟県立近代美術館、2000年