塩田千春の作品から他者との「つながり」を考える。圧巻のインスタレーションに注目
2024年10月3日
今井俊介 スカートと風景/東京オペラシティ アートギャラリー
まぶしいほどの鮮やかな色で描かれた、ストライプや水玉といったさまざまな図形の組み合わせ。”デザイン”にも”絵画”にも見え、”平面的”でありながらも波打つような”立体感”も感じられる不思議な作品です。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景
左から 今井俊介《untitled》2022年 髙橋龍太郎コレクション蔵、今井俊介《untitled》2022年、今井俊介《untitled》2017年
東京オペラシティ アートギャラリーで開催中の「今井俊介 スカートと風景」展は、国内外で作品を発表する気鋭のアーティスト 今井俊介による、東京の美術館では初となる個展です。
現在までの10年以上におよぶ表現を、かつてない規模で一堂に展示する展覧会をご紹介します。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー) 入り口
今井俊介は、1978年生まれのアーティスト。東京都現代美術館や愛知県美術館などにもその作品が所蔵されています。
今回の展覧会は、制作年代やテーマで章が分かれたり、作品ごとの解説が付けられることもなく、明るい展示室に大小さまざまな作品が並びます。今井俊介の作品には、カラフルなストライプや水玉が描かれていますが、これはいったい何を表しているのでしょうか?
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)より
左から 今井俊介《untitled》2022年 髙橋龍太郎コレクション蔵、今井俊介《untitled》2022年 髙橋龍太郎コレクション蔵
今井の作品は、実は独特な方法で制作されています。まず、パソコンの中で色と形を配置して図をつくった後に、紙にプリントアウト。それを手で曲げたり歪ませた状態で写真に撮影し、その状態をプロジェクターも使用しながら、カンヴァス上に表現しています。一見「抽象画」のようにも見える作品ですが、目に見える状態をそのまま描いた「具象画」とも言える制作方法ですね。
制作のようすも、写真や、実際に制作に使用している道具とともに紹介されています。デジタルツールを用いながら、緻密な手作業によって作品が仕上げられていくようすが伝わります。
今井俊介展の最初の展示室に入ると、中央に1枚の布が掛けられ、周囲4面には平面作品が並びます。これらの4つの絵画作品は、この一枚の布から異なる部分を描いた作品です。同じモチーフでも、注目する場所によって全く違った雰囲気になっています。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景
左から 今井俊介《untitled》2014年 東京都現代美術館蔵、今井俊介《untitled》2013年 髙橋龍太郎コレクション蔵
このように、同じモチーフから切り取り方を変えた作品を制作することについて、今井は、「『自分は、世の中をどういった立ち位置で捉えようとしているのか?』という関心にも繋がっている」と述べています。
こうした独特な制作方法に至ったきっかけは、実は1枚の”スカート”なのだそう。「何を描くべきか?」と絵画の本質的な問いに向き合う中で、知人の履いた幾何学模様がプリントされたスカートのドレープの美しさ、また、それを着る人の動きによって模様がゆがみ、表情が変化していくようすに興味を持ったといいます。そうして、2011年に制作された作品が、こちらの《untitled》。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー) より
今井俊介《untitled》2011年 高橋大輔氏蔵
この1枚が発端となり、その後の作品につながっていくんですね。
今回の展覧会は、2022年に香川県にある「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」で開催された展覧会の巡回展ですが、東京展では新たに、この”スカート”に出会う以前の初期作品が7点展示されています。初期作品にも、フラットで鮮やかな色彩の特徴は表れている一方、”スカート”の前と後では、モチーフが大きく変化している点にも注目です。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー) より
左から 今井俊介《patterns》2008年、今井俊介《patterns》2008年
これらの”スカート以前”の作品は、東京展のみで展示されます。。
展示を半分ほど進むと、その先の展示室が覆い隠されるほどの巨大な布が現れました。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)より
今井俊介《patterns》2023年
この布をくぐると、その先には広大な展示室が広がり、縦2.1m、横5.5mもの巨大な作品をはじめとする大判の作品が並びます。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景
こちらも、「丸亀市猪熊弦一郎現代美術館」の展示とは異なる、東京オペラシティ アートギャラリーならではの空間を使った大規模なインスタレーションです。大判の作品の前に立つと、視界が鮮やかな色に覆い尽くされ、目の中に色彩が流れ込んでくるようにも感じられます。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景
今井俊介《patterns》2017年
こうした特徴的な色彩は、今井がファストファッション店で、カラフルな服が天井まで積まれている洋服を見た時に「色に溺れる」ような感覚を受けたことが影響しているのだそうです。この鮮やかな色彩でいっぱいの空間を鑑賞しながら、わたしたちもまさにこの「色に溺れる」体験を追体験しているのかもしれませんね。
「今井俊介 スカートと風景」展 (東京オペラシティ アートギャラリー)展示風景
今井俊介 × 山田晋平 《color flood》 2016年
映像インスタレーションの作品では、刻々と変形していく布の映像による”色の洪水”が体感できます。
今井俊介展に合わせ、ミュージアムショップ「Gallery5」では、オリジナルグッズも多数販売されていました。
「Gallery5」で販売される「今井俊介展」オリジナルグッズ
缶バッチやマグネットなどの定番グッズに加え、なんと、今井俊介の作品に登場する図柄がプリントされた「布」の計り売りも。さらに、その布を使ったトートバッグやハンカチ、エプロンといった布製品も。色鮮やかで図形の組み合わせも楽しいので、日常で使うのにも心が躍りそうですね。
「Gallery5」で販売される「今井俊介展」オリジナルグッズ
図録も表紙が2種類から選べます。また、ポストカードは、複数のポストカードをつなげると1枚の大きな絵に。たくさんのポストカードのなかから、自分なりの好きな「風景」を選ぶのも楽しいかもしれません。
”抽象”と”具象”、”デザイン”と”アート”、”平面”と”立体”、”デジタル”と”アナログ”など、相反するようなさまざまな要素の間を行き来するような今井俊介の作品が一堂に会する今井俊介展。
鮮やかな色と図形に囲まれる展覧会は、アートファンだけでなく、デザイン好き、ファッション好きの方にもオススメです。美術館で”色に溺れる”体験をしてみませんか?