日本画の棲み家/泉屋博古館東京

床の間がなくなる現代の居住空間で、日本画とどう暮らすか【泉屋博古館東京】

2023年11月21日

特別企画展「日本画の棲み家」/泉屋博古館東京


展示風景より

泉屋博古館東京で、「床の間芸術」に注目する展覧会が開幕しました。

“日本画の棲み家”ともいうべき床の間は、かつて日本の邸宅には一般的な存在だったものの、現在は失われつつあります。

本展では最近見かけなくなった床の間について、対比的な「美術館」の空間で再考し、床の間が失われることへの問題提起も行っています。


日本画と床の間の関係

「床の間」とは床が設えられた座敷のことで、日常的な訪問接客や冠婚葬祭に伴う儀礼接客が行われる場です。

明治時代から一般家庭に普及し、当時の住生活の中で大きな比重を占めるものでした。

しかし、起居様式の洋風化や家父長的家制度の廃止など、住宅環境やライフスタイルの変化から次第に失われていきました。


会場内パネルより

「床の間芸術」の対義語といえる「展覧会芸術」は帝展や文展といった、西洋に倣う形で日本に導入された展覧会向けの作品を指し、大きな空間に見合う作品を求める大作主義をはじめ、色の濃いものや刺激的な作風が流行しました。

一方で、もう一つの日本画の文脈である「床の間芸術」は家の中で静かに鑑賞するものであり、落ち着きや癒しを感じさせる作風や、子孫繁栄や家庭繁栄など吉祥性のあるモチーフが好まれています。

このような背景を踏まえると、「床の間芸術」を美術館で展示するのはアンチテーゼ的でもあり挑戦的な試みです。

近代における床の間芸術

本展では同館のコレクションを中心に据えながら、床の間芸術について紹介しています。

邸宅で日々の暮らしの中にあった日本画

床の間芸術として愛好された日本画は、美術品でありながら調度品の側面も持っていたことが特徴的です。

泉屋博古館東京のコレクションを築いた住友家の邸宅は広く、大きな屏風絵を飾れる幅4mの巨大な床の間がありました。


展示風景より


畑仙齢《寿老人・梅亀・松鶴図》大正7年(1918) 泉屋博古館東京蔵

床の間には軸と工芸品をセットで飾ることが多く、その取り合わせに主人の趣味や趣向が表れます。

例えば、《蜀道青橋駅瀑布図(しょくどうせいきょうえきばくふず)》と《倣洋紅意窯変花瓶(ほうようこういようへんかびん)》は、絵の中で流れる滝と釉薬の流れが見事に調和する組み合わせです。

《松壑観泉竹谿煎茗図(しょうがくかんせんちっけいせんめいず)のうち竹谿煎茗図》と《恵澤爵香炉(けいたくしゃくこうろ)》は中国の山水画や青銅器をイメージさせるもので、文人趣味が感じられます。


(中央)高島北海《蜀道青橋駅瀑布図》明治41年(1908)
(下)宮川香山《倣洋紅意窯変花瓶》明治~大正時代前期(20世紀) いずれも、泉屋博古館東京蔵


(中央)村田香谷《松壑観泉竹谿煎茗図のうち竹谿煎茗図》明治37年(1904) 泉屋博古館東京蔵
(下)秦蔵六《恵澤爵香炉》明治45年(1912) 泉屋博古館蔵

岸田劉生《四時競甘》もお目見え

床の間の起源は諸説ありますが、かつては身分が高い人の座す場所だったともいわれています。

そのような由来から、高貴な仏画は床の間にふさわしい作品として好まれました。

他には、節句や季節の花鳥画などを画題とした日本画が、床の間芸術向きの主な作品として挙げられます。


(左)橋本雅邦《出山釈迦図》明治20年代初頃(1887~92) 泉屋博古館東京蔵

岸田劉生《四時競甘(しいじきょうかん)》は、豊穣や実りを象徴する果物、すなわち吉祥モチーフを描いた作品のひとつです。


(中央)岸田劉生《四時競甘》大正15年(1926) 泉屋博古館東京蔵

現代版の床の間芸術

本展では、今活躍している若手アーティスト6名が「床の間芸術」のテーマに沿った新作を発表しました。

伝統的な床の間芸術のスタイルを尊重しつつ、それらを美術館で展示するという違和感を作品に昇華させたものもあります。

「床の間芸術」に対するそれぞれの解釈や挑戦にご注目ください。


小林明日香《partition》令和5年(2023) 作家蔵


松平莉奈《ニュー・オランピア》令和5年(2023) 作家蔵


菅原道朝《水の三態》令和5年(2023) 作家蔵


澁澤星《Water (Leaves Floating on Water)》令和5年(2023) 作家蔵

中には、作家の意向から展示ケース内ではなく壁に掛けている作品もあります。

床の間と展覧会の空間の違いを捉え、実際に家の中で日本画を観るときの距離感が意識されたものです。


(左)長澤耕平《森の夜》令和5年(2023)
(右)長澤耕平《植物の睡眠》令和5年(2023) いずれも、作家蔵


水津達大《Khora》令和5年(2023) 作家蔵

 

「床の間芸術」は、住友家の美術品を所蔵し、かつ邸宅をイメージさせる展示空間を持つ泉屋博古館東京らしいテーマだといえるのではないでしょうか。

「展覧会芸術」とは異なる日本画の魅力に溢れ、親しみやすさがあり美術初心者にもおすすめの展示です。

現代における日本画は、美術館や画廊など観られる場所が限られ、多くの人が訪れる場所にしかないものになりつつあります。

この機会に伝統的な床の間芸術に触れつつ、新たなスタイルの作品から、現代における“日本画の棲み家”を考えてみませんか。


伝狩野伊川院栄信《寿老人・月に竹梅・旭日に松》江戸時代後期(19世紀前半) 泉屋博古館蔵
(下)住友家正月床飾り(小鉑、吹炭、床尻銅) 住友史料館蔵

Exhibition Information

展覧会名
特別企画展 日本画の棲み家
開催期間
2023年11月2日~12月17日 終了しました
会場
泉屋博古館東京
公式サイト
https://sen-oku.or.jp/tokyo/