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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
鈴木其一・夏秋渓流図屏風/根津美術館
鈴木其一(すずき きいつ/1796-1858)は、1世紀前の京都で活躍した尾形光琳(1658-1716)を私淑(*)し、江戸の地で江戸琳派の祖となった酒井抱一(1761-1828)の一番弟子です。
*私淑(ししゅく):直接の教えは受けないが、ひそかにその人を先生だと考えて尊敬し、模範として学ぶこと。
徹底した写実表現やシャープな造形感覚、ときに幻想的なイメージを作品内に加えて、個性を発揮した其一。
そんな其一の画業の中心にあるのが、代表作の「夏秋渓流図屛風(なつあきけいりゅうずびょうぶ)」です。本作は、2020年に重要文化財に指定されました。
「夏秋渓流図屛風」の重要文化財指定を記念する本展では、本作品の誕生の秘密を探ります。
※展覧会詳細はこちら
ひのきが立つ林のあいだを勢い良く流れていく渓流のようすを描いた、鈴木其一の代表作「夏秋渓流図屛風」。
右隻は山百合の咲く夏の景色が、左隻には桜の葉が赤く染まる秋の景色が描かれています。
重要文化財 夏秋渓流図屏風 鈴木其一筆 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
其一がこれまで描いてきた作品は、師匠である酒井抱一が築いた「江戸琳派」の作風に収まるものが多いのが実情です。
しかし本作をよく見ると、粘り気のある金の細い線が走る水流、まるで溶け落ちるかのような緑の斜面、ひのきの幹の中ほどまである大きすぎる百合、そして単純化された熊笹など、繊細で優美な装飾性で知られる琳派とは違う表現が目立ちます。
重要文化財 夏秋渓流図屏風(右隻) 鈴木其一筆 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
そうした理由から、本作は其一の作品のなかでも最大の異色作とも言われています。
本展では、酒井抱一や尾形光琳の影響はもちろん、円山応挙や谷文晁(たに ぶんちょう)、また古い時代の狩野派などの画風を取り込み、自然の実感に基づきつつそれらを統合する其一の制作態度に迫ります。
清楓朱楓図屏風 酒井抱一筆 日本・江戸時代 文政元年(1818) 個人蔵
「清楓朱楓図屏風(せいふうしゅふうずびょうぶ)」は、署名から抱一が文政元年(1818)に、住居兼アトリエである雨華庵(うげあん)で制作されたことが知られています。
明るい金地に鮮やかな緑や青、朱色が映える強い色彩感や単純化された熊笹など、これらの表現は「夏秋渓流図屛風」と似ているために、其一が抱一に代わって描いたのではないかと指摘されているそう。
しかし、本作は抱一が落款(*)を施して自作と認め、また19世紀における光琳イメージが見いだされる作品でもあります。そのため、本作が其一の個性を育んだ作品の一つではないか、という考えもあるそうです。
「夏秋渓流図屛風」と「清楓朱楓図屏風」、どちらも鮮やかな色彩が、展示室内でとくに目立ちます。見比べてみるのも、おすすめの鑑賞方法です。
*落款(らっかん):書画が完成した時、作者が証明し、または押印をすること。作者のサイン。
重要文化財 保津川図屏風 円山応挙筆 日本・江戸時代 寛政7年(1795)株式会社千總蔵
写生に基づく新しい絵画を創出し、以降の日本絵画に大きな影響を与えた画家、円山応挙(1733-1795)。重要文化財「保津川図屛風(ほづがわずびょうぶ)」は、応挙が亡くなるひと月前に描かれた作品です。
激しい勢いで流れる水が、屏風の左右と奥から中央に向けて流れるこの構成は、「夏秋渓流図屛風」と似ています。
応挙の写生画風の影響は抱一にも及びましたが、其一も応挙のことを崇敬していました。
琳派以外にも、積極的に広く画風を摂取した其一。「夏秋渓流図屛風」は、こうしたさまざまな優れた作品を上手く組わせた、スーパー・ハイブリッドと呼べる作品なのかもしれません。
「夏秋渓流図屛風」の誕生の秘密に迫るほか、本展では其一の多彩な画業も紹介します。
秋草・月に波図屏風 鈴木其一筆 江戸時代 19世紀 個人蔵
展覧会初公開作品や個人蔵の作品が多数出品! 「秋草・波に月図屏風」は、それぞれ異なる絵を描いた絹を、裏打ちせずに仕立てた作品です。
屛風の裏打ちとは、作品本紙の裏に紙を貼り付け、しわやたるみを防いで補強すること。本作は、それが施されていないため、裏側から光が入り込み、画面左にある葛(くず)の花のあたりにうっすらと月が浮かんでいるのが見えます。
こちらはぜひ、実際に展示室で見ていただきたい作品の一つです。
2020年、其一の作品で初めて重要文化財に指定された「夏秋渓流図屛風」について紹介する本展。
根津美術館は、広い日本庭園を持つ美術館としても有名です。11月上旬に撮影したこちらの紅葉も、日に日に色づいてきていると思います。
展覧会と一緒に、天気が良ければ庭園も散策してみるのもおすすめです。
なお、美術館への入館は日時指定予約制となっています。詳しくは根津美術館公式サイトをご確認ください。