風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践/WHAT MUSEUM

「波板と珊瑚礁 - 建築を遠くに投げる八の実践」建築倉庫 展示風景
東京・天王洲にあるWHAT MUSEUMで、建築模型を切り口としてこれからの建築を考える展覧会「波板と珊瑚礁 ― 建築を遠くに投げる八つの実践」が開催されています。
建築模型は、設計の検討やプレゼンテーションのための道具であるのと同時に、ときには実際の建築以上に建築家の考え方を映し出すもの。
本展では、そうした建築家の「思考の縮図」ともいえる性質に焦点を当て、8組の新進気鋭の建築家が本展のために新作を制作しました。
模型だけではなく、映像やインスタレーションなど、さまざまな方法で、建築家による世界の捉え方に触れられる展覧会です。
最初の展示室は、建築家・板坂留五が主宰する設計事務所・RUI Architectsによる《Prop》です。

RUI Architects「Prop」
WHAT MUSEUMに近い品川周辺エリアを観察し、そこから戯曲や日記のような5つの「語り」の小冊子を制作。
それに対応する5つの模型が展示されています。ここで、模型は建築物を再現する道具ではなく、「観察の道具」あるいは「スケッチブックのようなもの」として使われました。
見慣れた街のなかにある複雑さや、小さな要素同士の関係が、テキストと模型から浮かび上がる作品です。
続くDOMINO ARCHITECTSの《PULP FICTION (jetway)》は、空港で飛行機と建物をつなぐ「搭乗橋」を4つ連結し、終わりのない回廊のような空間として表現した模型の作品です。縮尺は10分の1。
真っ白で装飾のない大型模型は迫力があり、中を覗き込むとその空間に没入するようにも感じられます。

DOMINO ARCHITECTS 「PULP FICTION (jetway)」
建築家・大野友資が関心を寄せたのは、搭乗橋が「建築」と「製品」のあいだにある存在だという点でした。
伸び縮みして飛行機と接続し、中を人が移動するこの装置は、見慣れていながら意識されにくい建築空間でもあります。
搭乗橋自体は実在するものながら、それが実在しないループ空間へと変換され、旅立ちの高揚感とともに、どこにも着かない不穏さも感じさせる作品です。

DOMINO ARCHITECTS 「PULP FICTION (jetway)」
さらに、本作は建築家自身が長い時間をかけて、一人の手でスチレンボードを加工し、制作したもの。手書きの線や細部の癖が残ることで、架空の空間に強い実在感が生まれています。
Office Yuasaによる《闇、遅れた微光》は、建築模型そのものではなく、空間インスタレーションによって建築家の思考を表現しています。

Office Yuasa 「闇、遅れた微光」
展示室内の壁、椅子、机、本などに蓄光塗料が塗られ、来場者は照明をつけて席に着き、本を開いて過ごします。
照明を消すと、光が当たっていた場所では塗料が光を発する一方、本や人の影となっていた部分はそのまま影として残り、行為の痕跡が気配として暗闇に浮かび上がるようです。

Office Yuasa 「闇、遅れた微光」
ここで扱われているのは、完成した形としての建築ではなく、人が関わることで変わり続ける場です。
5組の読書台に置かれた本の言葉はしりとりのようにつながっており、前の人の痕跡が次の人へと受け渡されていく構成にもなっています。
作者は、情報も経験もすぐに消費されがちな現代のなかで、建築は持続性をもつメディアでもあると語りました。光の残像を通して、建築の中の「時間」を感じさせる展示です。
終盤では、テクノロジーを通じて建築と人、そして社会との関係を捉え直します。
建築家・津川恵理を中⼼とした建築チーム・ALTEMYによる《往還する身体》は、渋谷センター街とWHAT MUSEUM館内のライブカメラ映像から人の姿を切り抜き、会場内の複数のスクリーンに映し出す作品です。
来場者自身の身体の像もその映像に加わり、別の場所にいる人たちとひとつの空間をつくり出します。
公共空間を多く手がけてきたチームらしく、建築を完成した形ではなく、人と人との関わりから更新され続ける環境として捉えなおす試みです。

ALTEMY + risa kagami 「往還する身体」
また、平野利樹の《東京箱庭計画》では、展示台の上にさまざまな小物を並べた「箱庭」を3Dスキャンし、生成AIによって、東京の埋め立て地にその箱庭を移植したイメージを生成しています。
個人的で内面的な風景である箱庭を、公的な都市や建築のイメージへと広げていく試みです。

平野利樹 「東京箱庭計画」
超主観的なイメージから建築を考える実験、そして、⽣成AIによって思いがけない⾒え⽅や予想外の⾵景が産みだす実験にもなっている本作。
来場者が箱庭づくりに参加することもでき、個人だけでなく、集合的な無意識が都市として可視化されていきます。
本展の企画担当者で建築家・砂山太一は、「建築は、目の前の問題だけではなく、100年後とか200年後、500年後といった長い時間軸で物事を考える技術でもある。それを、模型という形をもって展覧会にできないだろうかと考えた」と語りました。
本展のタイトル「波板と珊瑚礁」の、「波板」は目の前の必要に応える軽やかで即時的な人工物であり、「珊瑚礁」は長い時間をかけて形成される自然の構造物である対比にも、その思いが感じられます。

なお、WHAT MUSEUMに隣接する建築倉庫では、本展に出展する8組の建築家たちが実際に手掛けてきた建築作品の模型も展示されています。
企画展とあわせて見ることで、それぞれの思想と実践を体感できるのでぜひあわせてご覧ください。

「波板と珊瑚礁 ― 建築を遠くに投げる八つの実践」建築倉庫 展示風景