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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
受贈記念:没後10年 舩木倭帆展/アサヒグループ大山崎山荘美術館
京都南部、大阪府との境にある大山崎町。
ここにはその昔、明智光秀と羽柴秀吉が激突した「山崎の戦い」の舞台となった「天王山」があります。現代でも、雌雄を決する勝負どころを「天王山」と言ったりしますよね。
その天王山の中腹にあるアサヒグループ大山崎山荘美術館を訪れました。
美術館外観
美術館へは阪急・JR大山崎駅から坂道を歩いて10分程。駅から送迎バスも出ています。
送迎バス停留所からさらに坂道を進むと、木々に囲まれたクラシックな建物が見えてきます。
このレトロで素敵な洋館で、ガラス工芸家・舩木倭帆(ふなきしずほ、1935-2013)の展覧会が開催されています。
大山崎山荘は大正~昭和初期に関西の実業家・加賀正太郎氏によって建てられた、重厚な落ち着きと温かみをあわせ持つ洋館で、国の文化財登録を受けています。
館内風景(2F)
クラシックホテルのような素晴らしい内装。木のぬくもりに包まれた心地よい空間が広がります。富豪の邸宅にお招きされた気分になりますね。
加賀氏の没後、この山荘は周辺の開発の波にさらされ「取り壊してマンションに」という計画もあったとか。
加賀氏はアサヒビール株式会社の初代社長であった山本爲三郎と深い親交があったこともあり、山荘を創建当時の姿に修復のうえ、1996年に「アサヒビール大山崎山荘美術館」を開館しました。
今年7月に「アサヒグループ大山崎山荘美術館」に名称変更後の初の展覧会となります。
会場エントランス
シックな会場エントランス。シンプルで美しいガラスの透き通った緑色がひきたちます。
舩木倭帆は、暮らしの中で活躍する「普段づかいのうつわ」を、生涯にわたり手仕事で生み出し続けたガラス工芸作家。
ガラス器の世界でも機械化が進み手仕事が消えていく中、デザインから製作まで一貫して手作業にこだわり、自らガラスを吹き続けました。
本展は、2021年に森田酒造の森田昭一郎氏から舩木倭帆コレクションが寄贈され、舩木倭帆の没後10年という節目にあわせた展覧会です。
舩木倭帆は島根県松江市に代々続く布志名焼窯元の家に生まれました。
父・舩木道忠(ふなきみちだだ)は柳宗悦や河井寬次郎、濱田庄司ら民藝運動の中心的人物に見出された陶工でした。
民藝運動とは、華美な装飾を施した観賞用ではなく、日常づかいの器や道具にこそ美があるとした芸術運動。アサヒビール大山崎山荘美術館は民藝のコレクションに定評があり、河井寬次郎や濱田庄司らの作品も多数所蔵しています。
左:舩木道忠 布志名 黄釉風車文皿(1950年代)
右:舩木研兒 緑釉押紋手付壺(1950年代)
こちらは美術館がもともと所蔵していた父・道忠と兄・研兒(けんじ)の作品。
道忠は民藝運動の影響を受けながら独自の美を追求。研兒も父の跡を継ぎ、卓越した技で高く評価されました。
舩木倭帆は家業の陶芸でなくガラス工芸の道を選びましたが、日常の器づくりの中で培われた感性は、ガラス作品の中に息づいています。
展示風景
「ガラス工芸」といえば、極限まで薄いガラスに繊細な彫刻を施した作品が思い浮かびます。でも、ここに並んでいるのは厚手の丸みを帯びた作品。
触れると壊れてしまいそうな繊細さとは対極の、丈夫で温かみを感じる「暮らしの中のうつわ」。観賞用でない「共に暮らすうつわ」にこだわった舩木倭帆の真髄に触れることができます。
山手館へ向かう通路
本館を出て第二展示室・山手館へ。「夢の箱」と呼ばれる山手館は、安藤忠雄が2012年に設計した建物です。
本館と山手館をつなぐ廊下は、温室への通路だったそう。広い窓から入る陽ざしを浴びながら美しい池に面した通路を進むと、本館とは対照的に黒基調のモダンな展示室が現れます。
展示風景
照明に浮かび上がるさまざまなガラスの花瓶。シンプルな形と彩りが漆黒の空間に浮かび上がります。決して華美な装飾がなされているわけではないのに凛とした美しさがあります。
「花瓶は花よりも地味で控えめに。花がきれいに見える時、不思議に花瓶が輝いて見えるのです」
舩木倭帆の言葉です。
垂描文大皿(1988-2012)
ガラスの表面にガラスを垂らして文様を描く、舩木が「垂描文(すいびょうもん)」と呼んだ作品。
幼い頃から父が陶器に文様を描く姿をみてきた舩木は、ガラス器の表面にも自在で躍動感のある文様を描こうと困難な作業に挑戦しました。
垂描文鉢(1988-2012)
ガラスを透過した光が展示台に反射して、まるで宝石を見ているよう。ライティングがとても工夫されています。
ミニ花瓶の展示風景
こちらはかわいらしいミニ花瓶。野に咲く小さな花のための小さな花専用の花瓶です。
とても小さな作品ですが、普段づかいのうつわをつくることに心を砕いた舩木倭帆らしい作品です。
展示風景
ガラスの優しいきらめきが溢れた山手館は、まさに「夢の箱」。
山手館内はフラッシュや三脚を使用しなければ撮影もOKです。
展示風景
再び本館にもどって、落ち着いたインテリアに並べられた作品を観賞。
奇をてらわないシンプルなうつわは、レトロな部屋にしっくりと馴染みます。
手仕事で丁寧につくられた皿は、一点一点違った表情。どんな料理を飾ろうかと想像するのも楽しみですね。
双耳モール花瓶(1988-2012)
アンティークなウォールランプが灯るこの部屋は、山荘時代の応接間。
高い窓からレースのカーテン越しに柔らかな陽ざしが差し込みます。
薄いグリーンの花瓶は自然光にやさしく包まれて、ずっと昔からそこに佇んでいるようでした。
心温まる展覧会を観た後は、こちらもぜひお見逃しなく!
美術館の別棟「地中館」には、印象派の巨匠・モネの《睡蓮》が展示されています。
半地下の展示室へ向かう長い階段の脇にある池には睡蓮が植えられ、タイミングが合えば夏場の午前中に咲くリアルな睡蓮と《睡蓮》の競演(!?)に出会えるかもしれません。
「地中館」展示風景
喫茶室では、今回の企画展に合わせてリーガロイヤルホテル京都が考案したオリジナルスイーツを味わえます。
舩木倭帆のガラス作品をイメージした逸品を、素晴らしい眺望のテラスでぜひご賞味あれ。
企画展オリジナルスイーツ
スイーツ単品 各700円
スイーツ・ドリンクセット 各1,200円 (コーヒー/紅茶/ワインいずれかとセット)
※ 税込、美術館入館料は別途必要
5500坪の広大な庭園も魅力。秋には素晴らしい紅葉も楽しめます。
ゆっくり時間をかけて味わっていただきたい展覧会。
京都・大阪方面にお出かけの際は、ぜひ足を延ばしてみてください。