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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は、西洋絵画の鑑賞に役立つ「主要な西洋絵画のモチーフ」について、詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
海外の主要な美術館の絵画作品が展示される大型展覧会では、西洋の宗教を元にした作品が数多く展示されています。しかし、「西洋の宗教画はよくわからない」という人も多いのではないでしょうか。
身近な風景や人びとがくつろいでいる情景を描いた印象派の作品は好きだけど、キリスト教を主題とする宗教画は少し苦手と思う方に、キリスト教美術の鑑賞方法をお伝えできればと思います。
教会の聖堂に訪れると、天井や側面の壁、また大きなステンドグラスや外壁のレリーフなど、至るところにキリストや聖母マリア、聖人の姿が描かれているのを目にするかと思います。聖堂内がこうしたきらびやかな装飾であふれていることには、ちゃんとした理由があります。
1世紀前半のイエス・キリストの死後、ヨーロッパにキリスト教が広まるにつれ、ヘブライ語やアラム語で書かれていた『旧約聖書』、またギリシャ語で書かれていた『新約聖書』が、ラテン語に訳されます。しかし、15世紀半ばにドイツ人のヨハネス・グーテンベルクが活版印刷を発明するまで、聖書は1冊ずつ手書きで写されたとても貴重なもので、かつ、ラテン語は聖職者や学者など知識のある人たちにしか読むことができないものでした。
そこで、聖職者たちはより多くの人びとに聖書の教えを伝えるために、聖堂を飾る祭壇画や壁画の彫刻やレリーフで、聖書の物語を図解する大きな挿絵を作ることを考えたのです。これは「貧者の聖書」と呼ばれています。
文字の読めない人びとのために「挿絵」という形で描いた宗教画は、より分かりやすく聖書の物語を教えるために、持ち物でその人物が誰なのかわかるように「アトリビュート(人物をしめす持ち物)」を描くなどの工夫が施されています。
本記事では、代表的なアトリビュートをいくつか紹介します。
聖母マリア
レオナルド・ダ・ヴィンチ《受胎告知》1472年~1475年頃
処女のまま神の子を宿したといわれる聖母マリア。天をあらわす青いマントと、マリアの愛やキリストの受難の血をあらわす赤い衣服を着ている女性として描かれていることが多いです。
イエス・キリスト
(左から)ラファエロ・サンティ《仔羊のいる聖家族》1507年頃/ピーテル・パウル・ルーベンス《キリスト降架(中央パネル部分)》1611年~1614年
左の作品のように聖母マリアと一緒にいる幼児の姿で描かれている場合は、犠牲の子羊や受難をあらわす赤いバラが描かれていることが多いです。
大人になると、長い髪とひげ、さらにイバラの冠をかぶっている姿で描かれるようになります。
ここで紹介した人物以外にも、西洋の宗教画ではさまざまなアトリビュートが描かれています。絵画を鑑賞する際は人物の持ち物にも注目し、自分でアトリビュートを発見するのも楽しいかもしれません。
17世紀になると、オランダでは美しい花やおいしそうな食べ物、また高級な金銀の器などを組み合わせた絵画が生まれます。一見するとただの静物画のようですが、実はこのモチーフにも宗教画的な意味合いが隠れています。
エドワールト・コリール《ヴァニタス》1669年
描かれている花や食べ物、金銀の器などの高級品は、すべてはかなく消えてしまいます。こうしたモチーフには、キリスト教の「この世の栄華はむなしいもの」という倫理観が込められていることがわかります。
また、人生のはかなさを示す時計や、死を象徴する頭がい骨などが描かれることも! 17世紀のオランダで描かれたこの静物画は「ヴァニタス画」と呼ばれています。ちなみに「ヴァニタス」はラテン語で「はかなさ」を意味します。
西洋美術と聞くと、ヌード像を思い浮かべる方もいるのではないでしょうか。とくに、フランスのルーヴル美術館が所蔵する《ミロのヴィーナス》をはじめとする古代ギリシャ、または古代ローマの彫刻は、男女問わずほとんどが裸の姿で彫像されています。
古代ギリシャ、古代ローマの人びとは、「神さまたちは人と同じ姿や感情を持っていた」と考えていたため、人間に近い神さまの姿が描かれていたのです。
しかし、キリスト教の倫理観においては、裸体は人の欲望をかきたてる悪いものと考えられていました。裸体表現が許されたのは、エデンの園のアダムとイヴなどのエピソードや地獄図くらいで、基本的には視覚的な表現は禁止とされていたのです。
サンドロ・ボッティチェッリ《ヴィーナスの誕生》1483年頃
そこで画家たちは、ギリシャ神話の愛と美の女神・ヴィーナス(アフロディテ)を、女性ヌードを描く口実としました。ルネサンス期のイタリアでは、ヴィーナスの絵は新婚夫婦の寝室に飾られていたのだそう! 婚礼を祝うための絵画して描かれていました。
西洋美術の鑑賞を楽しむための主要なモチーフについて、詳しくご紹介しました。いかがでしょうか。
ここで紹介したもの以外にも、美術品にはさまざまなモチーフがちりばめられています。展覧会で西洋美術を鑑賞する際は、描かれているものにも注目してみてくださいね。
次回は、もっとも有名な浮世絵師「葛飾北斎」について、詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年
・岡部昌幸 監修『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2019年
・藤原えみり『西洋絵画のひみつ』朝日出版社 2010年