ピエール・ボナール/10分でわかるアート

10分でわかるアート

今回の「10分でわかるアート」では、ナビ派の一員であり、独自の色彩表現で人びとを魅了する画家「ピエール・ボナール(1867-1947)」について詳しくご紹介します。

ピエール・ボナールとはどんな人?

ピエール・ボナールは、1867年にフランスのブルジョワ階級の家に生まれました。

20歳で大学の法学部に進学。法律を学ぶかたわら、美術大学の夜間部にも通います。

ピエール・ボナール《自画像》1889年

美術学校でモーリス・ドニポール・セリュジェら画家仲間に出会い、後にナビ派を創設。
法学士の資格を取得しましたが、美術の道に進むことを決意します。

26歳のときに後に妻となるマリア・ブールサン(通称マルト)に出会います。

マルトは、ボナールにとってまさに理想の女性でした。マルトをモデルにした作品も数多く描いています。

ピエール・ボナール《逆光を受ける女》1908年

ボナールは日本美術に感銘を受け、《庭の女性たち》、《乳母たちの散歩、辻馬車の列》など、掛軸や屏風を彷彿とさせる縦長の作品も制作しました。

ピエール・ボナール《田舎の食堂》1913年

1900年に入ってからは、南フランスの地にいくつかアトリエを持ったというボナール。

室内情景や日常風景など身近なものを題材に、温かみのある色彩表現で平面的でありながら光を捉えた絵画を描き続けました。

ボナールの作品を一部紹介

雑誌『ラ・ルヴュ・ブランシュ』のポスター

 

Affiche pour la “Revue Blanche” (Bouvet : 30) Bonnard, Pierre , Graveur En 1894 4e quart du 19e siècle Petit Palais, musée des Beaux-arts de la Ville de Paris PPG4640 CC0 Paris Musées / Petit Palais, musée des Beaux-Arts de la Ville de Paris

パリのインテリたちのための上品な生活様式を発信する月刊誌の宣伝用ポスターとして制作されました。

当時主流となっていたアール・ヌーヴォーと較べ、パリ風の小洒落た雰囲気と表面的で大胆な構図が異彩を放っています。

ポスター制作におけるリトグラフ制作工程が、後の絵画制作の役に立ったとボナールは語っています。

《にぎやかな風景》

ピエール・ボナール《にぎやかな風景》1913年頃 愛知県美術館蔵

この作品の舞台はセーヌ河畔の風景です。

牧歌的でのどかな田園風景の中でボナールの妻マルトと愛犬のユビュがくつろいでおり、穏やかな時間が流れています。

ボナールは1909年に南フランスに訪れたことをきっかけに、暖色を使った豊かな色彩表現に開眼しました。

また、この作品は晩年のクロード・モネの作品に触発されて制作されました。

《子供と猫》

ピエール・ボナール《子供と猫》1906年頃 愛知県美術館蔵

柔らかな光がさしこむ食卓で、猫を抱いた少女が猫を抱きながら食事を待っている様子を描いた作品。

右下の果物が一部が切断されて描かれていますが、俯瞰的に捉えると、見るものとの関係性がいっそう親密になります。

この手法は、ボナールが浮世絵を学んだことに由来しています。

穏やかな色彩に散りばめられた鮮やかな色彩が小気味よく全体を引き締めており、ボナールの卓越した技量が垣間見える作品です。

ポスター芸術の先駆者であったボナール

登記所で働きながらエコール・デ・ボザール(官立美術学校)で学んでいたボナールは、1889年にポスターのデザインコンクールで優勝します。

優勝作品のポスター《フランス・シャンパーニュ》のシャンパンの泡は、葛飾北斎の作品からインスピレーションを得て描かれています。

このポスターはパリの街中に貼られ、ボナールは注目の的に。そのおかげか、グラフィックデザイナーとしての仕事には困りませんでした。

ポスターを芸術の域に高めた画家といえば、ロートレックの名が挙げられます。
ロートレックはボナールのポスターを目にし、影響を受けました。
ボナールは1891年にロートレックと出会っています。ボナールはロートレックに印刷の仕事も紹介していたそうです。

愛する妻との穏やかな生活

精神的に不安定だったマルトの療養もあって、マルトとの結婚後は南フランスに購入した別荘を拠点としながら、自然豊かな地でのスローライフを好んだボナール。

制作においては写真を撮影し、色をノートにメモ。メモしたノートをアトリエで開いて制作にとりかかるという手法をとっていました。

最初に目にしたときに感じた印象や感覚を大事にしており、その感覚を表現するために、制作にとりかかるまでに一定の時間を空けていたそうです。

マルトを生涯愛したボナールは、彼女の死後も400点近い作品を描いています。

おわりに

あたたかな色彩に満ち、妻マルトへの愛に溢れた作品の数々を見ると、ボナールは幸せな生涯を過ごしたのではないかと思えてなりません。

画家仲間からは無口で物静かと評されていましたが、ナビ派の仲間をはじめ、クロード・モネやアンリ・マティスなどとも親交があったようで、友人も多かったようです。

ナビ派の中でも、特に日本美術に興味と関心を抱いた人物ということで、日本人にとって親しみやすい画家なのかもしれませんね。

【参考書籍】
・村上博哉 訳『岩波 世界の巨匠 ボナール』 (株)岩波書店 1994年
・ジュリアン・ベル 著/島田紀夫・中村みどり 訳『ボナール』 西村書店  1999年
・早坂優子『巨匠に教わる 絵画の見かた』株式会社視覚デザイン研究所 1996年

10分でわかるアートとは?

「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。

作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。

「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。