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2024年11月1日
開館60周年記念 走泥社再考 前衛陶芸が生まれた時代/京都国立近代美術館
京都一の大きさを誇る平安神宮大鳥居のすぐ横、京都市京セラ美術館の向いに立つ京都国立近代美術館。
今年で開館60周年を迎えるにあたり、その歴史と伝統を辿る企画展が開催されています。
今回は、戦後まもない時期に京都で生まれた前衛陶芸家集団「走泥社(そうでいしゃ)」の活動を振り返る展覧会です。
美術館外観
「走泥社」という名を初めて聞いた、という人もいるのではないでしょうか。
そんなあなたもこの作品、どこかで見たことがありませんか?
八木一夫《ザムザ氏の散歩》1954年 京都国立近代美術館蔵
走泥社の創立メンバー、八木一夫の作品です。
フランツ・カフカの小説『変身』で巨大な虫に姿が変わってしまった主人公・ザムザをモチーフにしています。
こうした陶製のオブジェは今でこそ広く見られるようになりましたが、当時は「陶器と言えば器物」という時代。
その常識を打ち破り、実用性を顧みない「オブジェ陶」という分野を切り開いたのが「走泥社」です。
走泥社結成挨拶状(1948年)
1948年、日本がようやく敗戦の混乱から立ち直りつつあった頃、芸術界では新たな一歩を踏み出そうという動きが見られました。
陶芸界では、清水焼で有名な伝統的なやきものの町・京都五条坂周辺で活動していた若手陶芸家たちが、伝統にとらわれない創作活動を目指し集います。そうして結成したのが「走泥社」です。
走泥社結成挨拶状の文面からは「新たな陶芸の世界を創るんだ」という強い気概が感じられます。
走泥社同人集合写真(1957~59年頃)
走泥社はことさらに規則や方向性を示すわけではなく、「伝統にとらわれない陶芸」=「前衛」の意識のもとに多様な考えを持つ人材が集まった集団でした。
メンバーの入れ替わりがありながらも、50年ものあいだ活動を続けていきます。
展示風景
本展は、特に陶芸界に大きな影響を与えた結成から25年までの活動にスポットを当てています。
走泥社の活動を年代ごとに追いながら、広い会場いっぱいに展示された個性あふれる作品は壮観です。
こちらは走泥社初期の中心的メンバー・鈴木治の作品。
ユニークで可愛らしく、いま見てもモダンなデザインですね。
初期の創作は陶器をキャンバスに見立てて絵を入れていく作品が多く見られます。
鈴木治《白釉黒絵ピエロ文広口瓶》1949年 華道家元池坊総務所蔵
会場には、当時彼らが影響を受けたパブロ・ピカソやイサム・ノグチの作品も展示されており、日本の前衛陶芸作品とあわせて観ることができる貴重な機会となっています。
清水卯一《鉄絵うず文花入》1948年 滋賀県立美術館蔵
走泥社と同時期に活動していた四耕会(しこうかい)に所属の清水卯一(しみずういち)の作品。
清水卯一は後に鉄釉陶器で人間国宝となりますが、前衛作品も手掛けていたんですね。
八木一夫《休息の眼》1959年 京都市美術館蔵
こうして陶器は「器」という枠から解き放たれ、「オブジェ」として存在感を示すようになります。
陶芸も伝統的な工芸面だけでなく、現代絵画のように作家の心情を表現する創作としてとらえられるようになったのです。
その先頭に立って時代を切り拓いていったのが走泥社のメンバーたちでした。
展示風景(手前から叶敏、辻勘之、河島浩三、森里忠男作品)
本企画展では、八木一夫、山田光、鈴木治といった中心メンバーをはじめ、さまざまな作家たちの独創的なオブジェ陶が一堂に会しています。
1964年、東京オリンピックを記念して日本初の国際陶芸展「現代国際陶芸展」が開催されます。
この展覧会をきっかけに、海外の陶芸作品が一気に日本に紹介されるようになりました。
「自由」「生命力」が前面に出る海外の表現に、前衛的ながら閉鎖的であった日本の陶芸界は衝撃を受けます。
こうした海外からの風に刺激され、個々の造形表現をいっそう追求した自由な作品が創られました。
展示風景(佐藤敏作品 手前から《バットマン》、《カブトマン》、《ピットマン》)
展示会場の雰囲気もガラリと変わって賑やかな雰囲気に。
作家の思い思いの表現が爆発しているようで、観ているだけで楽しくなる作品が並びます。
三輪龍作《LOVE》1969年 高松市美術館蔵
これが陶器?と驚くようなポップな作品から作家の意図を考えさせられる作品まで、感性豊かな作品が並ぶ会場は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したよう。
林秀行《作品》(部分)1973年 京都国立近代美術館蔵
走泥社結成初期の作品と比べると、伝統的な「陶器」という縛りから解き放たれていくようすが手に取るようにわかります。
海外の作品に触発されたことで、その動きに一層加速度がついたことも。
もう「前衛」と謳う必要がないほど、「器ではない、造形表現としての陶芸」が世の中に受け入れられるようになったのです。
八木一夫ら創設時からのベテランメンバーもまだまだ健在、若い作家たちも精力的に創作し、走泥社が日本の陶芸界に大きな影響を与えた時代でした。
八木一夫《ノー》1972年 京都国立近代美術館
「陶のオブジェ」にはこんな歴史があったんだということを、作品を通して知ることができる貴重な機会。
観て楽しい作品が揃っていますので、「前衛陶芸は難しそう・・・」と敬遠していた人にこそおすすめの展覧会です。
きっとこれまでの認識が覆ります。
また、美術館に併設の『cafe de 505』では、期間限定の“スイーツプレート” が登場。
ミニ抹茶パフェ、濃厚抹茶スフレ、特製どらやきが一度に堪能できます。
ドリンクには京都の老舗「一保堂」のお抹茶を選ぶこともできるんです。
ぜひこの機会に、京都で花開いた前衛陶芸の世界をお楽しみください。