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クロード・モネの世界にひたる。日本初公開作品を含む〈睡蓮〉などを堪能【国立西洋美術館】
2024年11月1日
「10分でわかるアート」は、世界中の有名な美術家たちや、美術用語などを分かりやすく紹介する連載コラムです。
作家たちのクスっと笑えてしまうエピソードや、なるほど!と、思わず人に話したくなってしまうちょっとした知識など。さまざまな切り口で、有名な作家について分かりやすく簡単に知ってもらうことを目的としています。
今回は「世紀末美術」について詳しくご紹介。
「この作品を作った作家についてもう少し知りたい!」「美術用語が難しくてわからない・・・」そんな方のヒントになれば幸いです。
19世紀後半に、ヨーロッパで流行したある特定の美術のことを「世紀末美術」と呼びます。19世紀末に流行ったといえば、印象派やポスト印象派も含まれるの? と思われますが、実はこれらは世紀末美術には分類されません。
世紀末美術の特徴としては、画家の深層心理に眠る社会に対する考えなどを「イメージ」という具象的な形で表現する象徴主義的であること、そして「退廃的」なテーマを主題としていることが挙げられます。そのため、神話や伝説、歴史、聖書、文学からモチーフを選んだ作品が多いです。
(左)ギュスターヴ・モロー《オイディプスとスフィンクス》1864年
(中央)オーブリー・ビアズリー《オスカー・ワイルド『サロメ』挿絵 》1894年
(右)エドヴァルド・ムンク《叫び》1893年
聖書に登場する女性サロメや、エジプト神話に登場するスフィンクスなどをモチーフとしているためか、美術史の中ではヒエラルキーの高い「歴史画」に分類されがちです。しかし、作品をよく観てみると単にその説話の一場面を挿絵のように描くのではなく、説話全体が意味するものを画家の独自の世界観へ引きつけて描き出されています。
死と愛、罪や宿命などの一見すると怪しくも作品世界に引き込まれてしまうイメージが多いのも特徴的です。それでは、世紀末美術の有名な画家とその作品についてご紹介していきます。
建築家の父と音楽家の母のもと、パリの裕福な家庭に生まれたモロー。「自分が感じたもの、目に見えるものだけしか信じない」という言葉を残した彼の作品には、個性的な解釈によって描き出された幻想世界が広がっています。
また、モローは生前から自身の作品をまとめて公開するために、自宅兼アトリエを美術館にする計画を進めており、彼の死後5年後に世界初の個人美術館である「ギュスターヴ・モロー美術館」が開館しました。
そんなモローの代表作である《出現》は、「ユダヤ王ヘロデの誕生日に舞を踊ったサロメに、欲しいものを与えると王が約束し、サロメが洗礼者ヨハネの首を望んだ」というエピソードを主題としています。
ギュスターヴ・モロー《出現》1876年頃
モローは本作のなかで、サロメを男性を誘惑し破滅をもたらす魔性の女「ファム・ファタル」として描きました。サロメは無垢な少女の印象が強く、このように魔性の女として描かれるのはとても珍しかったのだそう!
本作は、19世紀末から20世紀初頭にかけて一大ブームとなった「ファム・ファタル」の火付け役となった作品でもあります。
生後2日で里子に出されたルドンは、孤独な少年時代を送りました。孤独な日常のなかでルドンが絵画にのめり込んだのは必然であったのかもしれません。
彼が描く作品は、宙に浮く眼球や不思議な生物をモチーフにして独自の神話世界を表現しています。
オディロン・ルドン《キュクロプス》1914年
一つ目の怪物であるキュクロプスが、美しい海の妖精ガラテイアに恋をするというギリシャ神話のワンシーンを描いた本作。ガラテイアは色とりどりの花に囲まれて眠っており、それをキュクロプスが岩山の向こうから静かに見つめています。
一見すると怖い場面にも思えますが、キュクロプスのまなざしは優しげで、ガラテイアへの溢れる愛情が伝わってくるようです。晩年のルドンは本作のように、古代神話や女性の肖像のモチーフを花で飾り立てた作品を多く残しています。
ウィーン郊外のバウムガルテンに7人兄弟の長男として生まれたクリムト。金箔をふんだんに使うロマンティックな絵画作品を多く残しています。
グスタフ・クリムト《接吻》1907-1908年
クリムトの代表作である《接吻》は、花園の中で男性が女性を包み込むように抱きしめ、ほほに軽く口づけをしている場面が描かれています。
ロマンティックな場面ですが、2人がいる花園に注目してみると・・・なんと崖っぷち! 世紀末美術の特徴のひとつである「愛と死」をモチーフにしているのが分かります。
※グスタフ・クリムトについてもっと知りたい方はこちら
豊田市美術館は、1995年に開館しました。
同館は、美術とデザインを接続する総合芸術を目指した世紀末ウィーンの動向に注目し、グスタフ・クリムトとエゴン・シーレの肖像画、オスカー・ココシュカの自画像に、彼らのドローイングや版画も加え、充実したコレクションを形成しています。
世界的なルドン・コレクションを持っていることで有名な岐阜県美術館。ルドンのほかにも、近・現代の国内を代表する作家の作品や、岐阜県ゆかりの作家など、個性豊かなコレクションを形成しています。
2016年からは、人とアートをつなぐキーワード「ナンヤローネ」を軸にさまざまなプロジェクトを展開し、人とアート、地域とアート、人と人、人と地域をつなぐ活動も行っています。
国内では上記2館の美術館のコレクションが有名です。国外ではギュスターヴ・モロー美術館(パリ)やクリムトやシーレの作品を多く所蔵する国立オーストリア美術館(ウィーン)などが挙げられます。
19世紀末から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで流行した「世紀末美術」について詳しくご紹介しました。
私たちがよく知る神話や聖書、歴史上のエピソードを画家独自の世界観で表現する世紀末美術。今回ここで紹介した作品以外にも、挿絵画家で有名なオーブリー・ビアズリーや《叫び》で有名なノルウェーを代表する画家エドヴァルド・ムンクなども、このジャンルに分類される画家です。
興味のある方は、ぜひご自身でも調べてみてくださいね。
さて次回は、大正ロマンを代表する挿絵画家「高畠華宵」について、詳しくご紹介します。お楽しみに!
【参考書籍】
・岡部昌幸『西洋絵画のみかた』成美堂出版 2020年
・河村錠一郎『世紀末美術の楽しみ方』新潮社 1998年