風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、 それが絵本の中にはあるんです。」/ちひろ美術館・東京

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
絵本画家・いわさきちひろ(1918-1974)は生前、エッセイや日記、手帳などに数々の言葉を遺しました。
現在、ちひろ美術館・東京では、遺された言葉を手掛かりに、ちひろの人物像や創作の軌跡を紹介する展覧会が開催中です。
展覧会タイトルの「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」も、ちひろが晩年に語った文章から引用したものです。
絵と言葉で、ちひろの人生をたどる本展。
さっそく展示の見どころをご紹介します。
幼いころから絵を描くことが好きだったちひろは、女学校時代に洋画を学んでいました。
将来、画家になることを夢見ていましたが、戦争によってその夢を一度諦めてしまいます。

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
1945年8月15日、両親のふるさとである長野県で終戦を迎え、ちひろは自らの生き方を真剣に考え始めます。
そして終戦の翌年1946年5月に、絵の勉強をするために上京。
叔母の嫁ぎ先である、神保町の箔押し屋の屋根裏部屋に身を寄せました。

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
人民新聞社で、文も絵も得意とする記者として、「働く婦人」や「労働戦線」などで、女性が働く現場を記事にしています。
女性が画家として活躍するには、まだ難しい時代。
それでもちひろは、仕事も家庭も犠牲にせず、ひたむきに頑張っていたようすが展示からわかります。
1968年、ちひろは至光社の編集者・武市八十雄(たけいちやそお)とともに、「絵本しかできないこと」を求めて実験的な絵本づくりを始めます。
その代表的な作品である『あめのひのおるすばん』を、本展では紹介しています。

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
『あめのひのおるすばん』は、ちひろが幼いころの記憶をもとに、雨の日にひとりで留守番をする少女の心の揺れ動きを描き出した絵本です。
「すべて自分で考えたような絵本をつくりたい」と思い、編集者とともに、絵本づくりに意欲的に取り組み、絵本が持つ可能性を追求していきます。
そして、「感じる絵本」と呼ばれる新たなジャンルを確立。
このイメージや感覚を描き出した絵本はシリーズとなり、亡くなるまで毎年1冊ずつ創作し、全6作が出版されました。

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
1972年から73年にかけて、ちひろはベトナム戦争を題材とした2冊の絵本を制作しています。
このころ、ちひろはすでに体調を崩し、入退院を繰り返していました。
『戦火のなかの子どもたち』は、自らの戦争体験を重ねてベトナム戦争のなかで生きる子どもたちの姿を描いたものです。
絵と短い言葉による詩集画のような本作。ちひろが生前に完成させた最後の絵本です。

ちひろ美術館コレクション「魔法の絵本=絵本の魔法」展示風景
2階の展示室2では、ちひろ美術館コレクション「魔法の絵本=絵本の魔法」も開催中です。
絵本のオリジナル・イラストレーションとしては、世界最大規模のコレクションを誇る、ちひろ美術館コレクション。
そのコレクションから、「魔法」をテーマとした絵本をギュッと集めて紹介します。

ちひろ美術館コレクション「魔法の絵本=絵本の魔法」展示風景
19世紀イギリスを代表する挿絵画家、絵本画家のリチャード・ドイルが絵を手掛けた『妖精の国』は、ヴィクトリア朝の妖精表現の到達点を示す詩集画です。
とても美しい作品ですので、ぜひじっくりと展示室でご覧ください。
ちなみに、リチャード・ドイルの弟も妖精画家。甥は『シャーロックホームズ』シリーズで知られる作家アーサー・コナン・ドイルです。

ちひろ美術館コレクション「魔法の絵本=絵本の魔法」展示風景
展示室内のパネルには、「ひみつの文字」が隠されています。
順番に文字を拾ってつなげると、魔法のキーワードが完成します。
子どもと一緒に、パネルの中に隠された「ひみつの文字」も探してみては、いかがでしょうか。

魔法のキーワードの答えは図書室にあります

いわさきちひろ「とても素朴なんだけれどたいせつなもの、それが絵本の中にはあるんです。」展示風景
心に響く言葉を多く遺した、いわさきちひろ。
ちひろ美術館では今年、ちひろの作品、写真の目録に続き、言葉を収録した3冊目の目録の刊行を予定しています。
今回の展覧会で紹介されているちひろの言葉も、そのなかに掲載されるものが含まれています。
絵とともに並ぶちひろの言葉を辿ることで、彼女自身が移り変わる時代の中で模索しながら、自身の表現を見出していく姿を見ることもできます。
心穏やかな時間を過ごすことができる、そんな展覧会でした。

また、ちひろ美術館・東京は、ちひろが1974年に亡くなるまでの最後の22年間を過ごした自宅兼アトリエ跡地に建つ美術館です。
ちひろは草花を愛しており、館内にも「ちひろの庭」という季節の草花が楽しめるスペースもあります。
こちらも見ごろを迎えていますよ。
