風刺画/10分でわかるアート
2023年3月29日
伊勢の名刹 専修寺/霞会館記念学習院ミュージアム

(左から)《色絵金襴手花卉楼閣文大皿》有田焼 江戸時代・18世紀、《桐鳳凰蒔絵書棚》 江戸時代後期・1850年代、《染付鳳凰文蓋物》有田焼 江戸時代・17世紀
霞会館記念学習院ミュージアムにて、特別企画展「伊勢の名刹 専修寺 -寺宝からみる公家文化」が2026年6月13日まで開催されています。
三重県津市にある専修寺(せんじゅじ)は、親鸞の教えを受け継ぐ真宗高田派の本山。
江戸時代以降は皇族や公家が住職を務める「門跡(もんぜき)寺院」としての格式を誇り、都の洗練された公家文化がこの地にもたらされました。
学習院大学は2023年から、専修寺に伝わる美術工芸品や歴史資料をくまなく調べる悉皆(しっかい)調査を行っています。
これまで5回にわたる調査で、685件の宝物を確認。およそ100年もの間、蔵の中で大切に保管されてきた品々から、京都の公家文化や江戸将軍家との交流を物語る貴重な品が、多数発見・再確認されました。
本展は、この調査で判明した新出作品を中心に、専修寺の知られざる寺宝を初めて大規模に紹介する展覧会です。

会場入口
今回の大きな見どころが、寺外初公開の《阿弥陀如来立像(御対面所本尊)》です。
像に残された銘文から、運慶の次世代にあたる仏師・慶俊によって1240年に造立されたことが知られています。

《阿弥陀如来立像(御対面所本尊)》慶俊 鎌倉時代・延応2年(1240)
全身に塗られた金泥(きんでい)の落ち着いた輝きが、生身の人間のようなリアリティを生み出しています。
会場では、台座が低く設定され、ガラスケースなしの至近距離で鑑賞できます。
着衣の繊細な切金(きりかね)文様など、間近でじっくり確認してみてください。

【重要文化財】《親鸞聖人伝絵》詞書:覚如 鎌倉時代・永仁3年(1295)
重要文化財《親鸞聖人伝絵》は、浄土真宗の開祖・親鸞の生涯と事績を描いた、現存最古の絵巻。
鎌倉時代に描かれたとは思えないほど、鮮やかな色彩を保っています。
文字の部分は親鸞のひ孫である覚如(かくにょ)の筆とされ、歴史的にも極めて価値の高い作品です。
京都の公家や皇族と深い関わりを持っていた専修寺には、都で活躍した絵師たちの作品も数多く残されています。
会場には、近衛家ゆかりの円山応挙の《漁夫図》や、有栖川宮家との交流を物語る、応挙の孫・応震の《嵐峡春景図》などが並びます。

(左から)《嵐峡春景図》円山応震 江戸時代・19世紀前半、《漁夫図》円山応挙 江戸時代・18世紀後半
5幅からなる《五節句図》は、最初からセットとして制作されたのではなく、「五節句」のテーマに合わせて後に組み合わせられたと考えられています。
18世紀から19世紀にかけて京都で活躍した 土佐派や円山派、原派といった異なる画派の一流絵師たちによる、華やかな競演が見どころです。

《五節句図》(右から)《白馬節会図》源琦 江戸時代・18世紀後半、《上巳図》吉村孝一 江戸時代・19世紀、《長命縷図》原在照 江戸時代・19世紀(1837年以降)、《七夕図》《重陽図》絵:土佐光貞 賛:九条尚実 江戸時代・18世紀(1775~1782年)

《常磐井鶴松(堯猷上人)像》中丸精十郎 明治19年(1886)
この肖像画は、後に専修寺の住職(第22世堯猷(ぎょうゆう)上人)となる近衛家出身の少年、常磐井鶴松(ときわいつるまつ)を描いた油彩画です。
作者の中丸精十郎は明治に活躍した肖像画家ですが、現存する作品は極めて少なく、彼の画業を知る上でも重要な作品です。

《桐鳳凰蒔絵書棚》江戸時代後期・1850年代
そして《桐鳳凰蒔絵書棚》は、第14代将軍・徳川家茂から近衛家に贈られたものが、後に堯猷上人を経て、専修寺に伝来しました。
金粉をまきつけたきらびやかな梨子地(なしじ)に、金銀の高蒔絵(たかまきえ)という技法で桐の大樹と鳳凰が描かれています。
幕末期の最高峰の漆工技術を伝える豪華な調度品です。
皇室との深いつながりを象徴する、珠玉の工芸品も見逃せません。
《透彫双耳三足香炉》は、明治天皇の皇后・昭憲皇太后の遺品として専修寺に譲られました。
白薩摩と呼ばれる滑らかな陶器に、まるでレースのような美しい文様が施されています。
人工的な温度調節ができない時代に、これほど繊細な造形を破損なく焼き上げるには、非常に高度な技術が必要でした。近代薩摩の優れた技が光る見事な逸品です。

《透彫双耳三足香炉》薩摩焼 明治時代~大正時代・19~20世紀
鮮やかな赤色が目を引く《玉製鵞鳥置物》は、明治天皇からの贈りもの。
バナナから顔をのぞかせる愛らしいネズミや、虫食いの跡まで精巧に表現された栗など、象牙細工のユーモラスな作品も楽しめます。

(左から)《玉製鵞鳥置物》明治時代・20世紀、《牙彫鼠果物置物》美州 明治時代末期~大正時代初期・19~20世紀
直径60cmにも及ぶこの巨大な皿は、18世紀に海外への輸出品として作られたものです。
こうした豪華な磁器は、ヨーロッパの王侯貴族の城館や宮殿を飾る調度品として好まれました。
日本国内に残っているケースは珍しく、寺に伝わった理由は今もわかっていません。
海外からの里帰り品なのか、あるいは贈呈品なのか、今後の調査の進展が待たれます。

《色絵金襴手花卉楼閣文大皿》有田焼 江戸時代・18世紀
今回公開されたのは、膨大なコレクションのごく一部。お寺の中には、まだ多くの驚きや謎が隠されている可能性が高いと考えられます。
学習院大学による調査はこれからも続きます。荒川正明館長は、「今後も展示という形で公開できれば」と今後の展望について語っています。
本展は全作品撮影が可能です。
気軽にアートを楽しめる入場無料のミュージアムで、伊勢の名刹が育んできた豊かな文化に触れてみてはいかがでしょうか。

霞会館記念学習院ミュージアム 外観